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№106「人工甘味料の功罪」ダイエットシュガーはダイエットの妨げか?
砂糖がむし歯の原因であることは良くご存知だと思います。特に砂糖の量よりも摂取回数が多いことがむし歯を増やす原因になります。
また過剰摂取された砂糖は、余剰分が肝臓にグリコーゲンとして貯蔵され、さらに余った糖は脂肪細胞に蓄えられ、肥満やそれに続く生活習慣病の原因になります。
もし食品の全部から砂糖を排除し、代用糖に変えたとすると2年間で86%むし歯の発生が抑えられたという報告があります。
キシリトールやパラチノース、オリゴ糖などの代用糖はむし歯菌が利用しにくいために、甘くてもむし歯になりにくい効果が期待されて食品に添加されています。しかしキシリトールには下痢を起しやすいという特徴があり、また同時に砂糖が含まれていれば、そのむし歯予防効果は確実ではありません。カップリングシュガーやパラチノースはむし歯にはなりませんが、腸から吸収されてエネルギーとなるためダイエットには向きません。
ダイエット用の低カロリー甘味料としてはアスパルテームやステビアがよく使われています。
糖質の構造を変えた糖質性人工甘味料(代替糖)は吸収しにくいために低カロリーであり、アスパルテームなどの非糖質性の人工甘味料にはほぼカロリーがありません。
・ 代替甘味料
1. 糖質性甘味料 ①単糖類(ブドウ糖、果糖) ②二糖類(マルチトース、パラチノースなど) ③少糖類(オリゴ糖類、カップリングシュガー)④糖アルコール(マルチチール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、還元水飴)
2. 非糖質性甘味料 ①合成系(サッカリンなど) ②天然系(ステビアなど)③アミノ酸系(アスパルテーム)
アメリカでは、これまでアスパルテームが主流であった人工甘味料の市場に強力なニューカマーが登場しました。これが噂の「Splenda」でスクラロースと呼ばれる物質で、正式名をトリクロロガラクトスクロースといいます。
砂糖(スクロース)の水素基3箇所を塩素に置き換えた構造をしており、サッカリンやアスパルテームと違い、天然の砂糖を原料にしています。
甘さは砂糖の600倍以上でアスパルテーム(砂糖の200倍)より強く、ややしつこい感じがあるが、砂糖に近い味をしています。またアスパルテームのように湿度や温度により変質しやすいという欠点もありません。
ダイエットコークなどもスクラロースに変更されましたが、今まではアスパルテームが主流だったダイエット食品・飲料の市場において、急速にその主役の座を奪いつつあります。
○ 脳はスクラロースでは満足できない
最近の研究によれば、味覚が人工甘味料と砂糖の違いを区別できない時ですら、脳はその違いを認識していることが分っています。
カリフォルニア大学サンディエゴ校(University of California, San Diego、略称:UCSD)において、12人の女性が、スクラロースまたは本物の砂糖を溶かした水のそれぞれを啜っている最中にファンクショナルMRI検査を受けました。
ファンクショナルMRI(fMRI)は、MRI装置を使って脳の“機能(function)”を画像化するというもので、血液中の酸素と結合していないヘモグロビン(デオキシヘモグロビン;Deoxy-Hb)が、周囲組織との間に磁場不均一性を生ずることを利用し、脳機能が亢進している場所を画像化することができます。
fMRI検査の結果、最初は人工甘味料も本当の砂糖も、似たような味覚と快感の信号が脳神経回路網を伝播し、被験者も両者を区別すことはできませんが、砂糖は人工甘味料より、広い範囲で脳内の快楽に関係する脳領域、つまり島皮質(とうひしつ、insula、島)を活性化することが分りました。
Insular cortex、島皮質は単に「島insula」、あるいは「ライルの島」とも呼ばれますが、脳の外側面の奥にあり、側頭葉と頭頂葉を分割している外側溝の内部に位置しています。
島皮質は前部と後部に分れ、前部は視床からの入力を受け、情動を司る扁桃体と相互に連絡しています。島皮質の後部は、二次感覚野と連絡し、視床からの入力を受けています。
島皮質前部は、味覚、臭覚、内臓感覚、自律性調節(恒常性機能)、大脳辺縁系と深く関係し、後部は聴覚、体性感覚、骨格運動と関係しています。
島皮質は痛みの体験、喜怒哀楽、不快感、恐怖などの基本的な感情の発生や体験にかかわりを持ち、食べ物や薬物に対する渇望など意識的な欲望の発生にも関係しています。
島皮質は飢餓(starvation)や渇望(thirst)を生み出し、食べ物やアルコール、麻薬や覚醒剤などへの強い衝動を作り出します。
ここで「本物の砂糖は、快感を感ずる領域からより強い反応を引き出す」ことが分りました。
味覚領域を含む島皮質は快感を司る報酬系と結びつくことにより、喜び(enjoinment)の感情形成に一定の役割を果たしています。
スクラロースが脳内を活性化しないにもかかわらず、これらの脳内領域の間のコミュニケーションをより奮い立たせるように見えることに、研究者たちは驚かされました。
現在、スクラロースは報酬系を刺激、活性化するが決して満足感を与えないと推定されています。
つまりあくまでも仮説の段階ですが、スクラロースは決して渇望を満たし、満足を与えないわけです。
この理論を突き詰めれば、ダイエットのためにスクラロースを使う人々にある教訓を与えることになり、特に最近の研究では、人工甘味料摂取と健康状態の悪化に関係があることを示唆しています。
大規模調査によれば、ダイエットソーダの消費量と冠動脈疾患やメタボリックシンドロームの増加には正の相関関係があることが発見されています。
通常の飼料に加え、人工甘味料を混ぜたヨーグルトで飼育されたラットは、本物の砂糖を含むヨーグルトを与えられたラットに比べ、食欲が止まらずに体重が増え続けます。
この研究を行なった研究者は、「人口甘味料を与えられ続けたラットは摂取カロリーを監視し、食べることをやめる決定を下す脳の機能が徐々に弱まる」と推定しています。
これらの研究結果は、脳が人工甘味料に対して砂糖とは異なる反応をする証拠であり、また特に人工甘味料を活用したダイエットプログラムを立案するときに注意しなければならない点を示しています。
これはあくまで私見ですが、例え、公的機関により安全性が保証されているものでも、人工甘味料を習慣的に多量に摂取する食生活には何らかの危うさが包含されているものと思ったほうが無難かもしれません。
参考文献:
1.「scientific American MIND vol19」ページ14 “Faux Sugar: Bittersweet”
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