№110「2=1もっともらしい嘘」なぜ毎日歯磨きをしてもむし歯や歯周病になるのか?
本文へジャンプ 9月11日 
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 孫引きで申し訳ありませんが、過日、国立ヨハネスブルク大学教授のイワノフ・ボスコノビッチ博士が2=1を証明した論文を、
英数学誌「マスマティック・ロジスティック」1月号に投稿したそうです。

a=b
a2=ab
a2-b2=ab- b2
(a+b)(a-b)=b(a-b)
a+b=b
2b=b
2=1

どこかが絶対に間違っているはずなのに、今のところ誰もその誤りを証明できないそうで、もしこれが真実ならば、ユークリッド幾何学は根底から崩壊してしまいます。
賢明なる諸兄はこの嘘を見破ることができたでしょうか?

 この世には「もっともらしい嘘」というのがたくさんあります。
皆がなんとなく信じている常識とされる暗黙知だけれど、実は誰も証明できない思い込みのようなもの、歯科医療で言えば、「歯磨きをすればむし歯や歯周病を防ぐことができる」
というフレーズなどがそれに当たるのでないでしょうか?

 なんて書くと、とんでもないことを言うと叱られてしまいそうですが、現代の日本人で歯磨きをしない人はどのくらいいらっしゃるでしょうか?厚労省の平成17年度の歯科疾患実態調査によると、
一日1回も歯を磨かない人は1.4%にすぎません。つまり98.6%の日本人は毎日習慣的に歯を磨いていることになります。
また一日1回だけ歯を磨く人の回数が減り、一日2回~3回歯を磨く人の回数が増えています。


歯磨きの状況



永久歯の健全歯、むし歯の処置・未処置の状況(平成17年)

「80歳で20本の歯を残す」という8020運動の影響もあり、80歳~84歳で残っている歯の数は、平成11年に13.0%だったものが、平成17年には21.1%に増えています。

しかし厚労省の平成17年度の歯科疾患実態調査によると、歯周炎の人は45~74歳の約半数を占め、歯肉炎も含めると、「成人の8割が歯周炎」の状態になっています。
またむし歯になっているか、むし歯のために詰め物や冠をかぶせてある歯の割合も、40代以降では保有する歯の半数以上を占めているのが実態で、
少なくとも大多数の人が毎日必ず歯磨きをしているのに、むし歯や歯周病の発生が充分に抑制されていないことを示しています。

 
4mm以上の歯周ポケットを持つ者の年次推移

○ 「なぜ毎日歯磨きをしてもむし歯や歯周病を防げないのか?」

これは見方を変えれば「例え毎日歯磨きをしてもむし歯や歯周病は防げない」ことになりますが、その理由は予防や治療に役立つ歯磨きの方法とエチケットと
自己満足のために行われる歯磨きの方法はまったく異なるために、習慣的、本能的に行なっている歯磨きの方法だけでは、充分にプラークコントロールが行なえないことにあります。
また食べ物の摂り方やその他の生活習慣、特に喫煙への対応が伴わないと歯科疾患は予防できないことが分っています。

例えば次の質問にあなたはどう答えますか?

1. 夜更けに、お酒を飲むか甘いものを食べた後は必ず歯磨きを良くするからむし歯にならない。

⇒ 晩酌習慣のある方は歯磨きをしていても、むし歯や歯周病になりやすい傾向を持っています。就寝前一時間以内に飲食を行なった場合、すぐに歯磨きをして寝ても、
歯肉と歯の間の溝や歯と歯の接触面に細菌が利用できる糖質が残っているために、唾液の分泌量が少なくなる就寝中にお口の中の細菌が増えるのを防ぐことができません。
食べ物を食べれば必ず食後にお口の中の細菌が作り出す酸により、唾液の酸性度は高まりますが、30~40分して細菌がお口の中の糖質を分解しつくすと
唾液の緩衝能力によりお口の中は中性から弱アルカリ性に復帰します。



ミリメートル単位の歯ブラシでミクロン単位の細菌をすべて取り除くことは不可能であり、就寝前に飲食を避けることが効果的なむし歯や歯周病の予防法になります。

2. 歯磨き粉(歯磨剤)をたっぷりつけて毎日長時間ゴシゴシ磨いているので、むし歯や歯周病にならない。

 ⇒ 歯磨き粉(歯磨剤)の中には殺菌成分や美白成分、キレート剤、フッ素、発泡剤、湿潤剤、清涼剤、粘結剤、甘味料、香味剤、色素、研磨剤、保存料などが含まれているため、
ステインや歯垢を落しさわやかな清涼感を得ることができます。

しかし歯磨剤を使う量が多すぎる場合や硬い歯ブラシを用い強い力で歯ブラシを行なう習慣がある場合、歯質の表面に目に見えない小さな傷が残りやすく、
歯の表面積が大きくなるため、かえって着色や歯垢がつきやすくなります。またその結果、歯肉の退縮を招き、知覚過敏症になることがあります。

また歯ブラシの力が強いと却って歯ブラシの毛先が歯間隣接面や歯と歯肉の間に届きにくくなるために、お口の中の細菌の量が減らない場合があります。

過度に研磨力の強い歯磨剤は割け、歯垢を剥がしやすくするデンタルリンスを併用しながらフッ素の含まれた研磨効果の弱い歯磨剤を
ステイン除去の目的で少量だけ歯磨きの仕上げに使われるほうが安全で、それでも残りやすいステインは定期的に
歯科医院で専門的な清掃(PMTC:Professional Mechanical Tooth Cleaning)を受けたほうが安心できます。

3. 電動歯ブラシを使っているのでプラークコントロールは完璧である。

 ⇒ 確かに最近普及してきた音波歯ブラシは従来の機械的な往復運動、回転運動タイプの電動歯ブラシよりも清掃効果が期待できます。
しかし電動歯ブラシをつかっているのに歯周病が進む人は多く、使い方が悪いと例え電動歯ブラシを使っていてもむし歯や歯周病が進行してしまいます。

往復運動、回転運動タイプの電動歯ブラシは動きが画一的なために、磨き残しが生じやすく、音波歯ブラシもある一定時間以上毛先が細かな部分に
正確に当たっていないと効果が出ません。お口の中には、電動歯ブラシの清掃効果が得られやすい場所、手の歯ブラシの方が効果を上げやすい場所があり、
両者の使い分けが必要になります。

効果的なプラークコントロールを行なうためには、一日のうち電動歯ブラシを使うとき以外に手の歯ブラシとデンタルフロスを使い、
丁寧に歯磨きを行うときを組み合わせることをお勧めします。

4. マウスリンスを使っているので歯磨きをしなくてもむし歯にならない。

 ⇒ マウスリンス(洗口液)には口臭予防、殺菌成分が含まれているために、むし歯や歯周病を予防する効果が期待されています。
製品の中には、歯垢が歯の表面から剥がれやすくするタイプ、歯周病菌の殺菌効果を持つタイプ、バイオフィルム(歯垢)に浸透するタイプなどがあり、
それなりの効果があると思われます。しかし強固に歯面に付着しているプラークをマウスリンスだけで除去することは不可能で、
やはり正しい歯ブラシにより機械的に歯面からプラークを剥ぎ取らなければ、むし歯や歯周病を防ぐことはできません。

5. キシリトール入りチューインガムを噛んでいるからむし歯や歯周病にはなりません。

 ⇒ キシリトールは白樺やトウモロコシから作られる代替甘味料で、むし歯菌が代謝で酸をつくらないためお口の中が酸性になりにくく、
むし歯をふせぐことが期待されて使用されています。
確かにキシリトール自体にはむし歯をつくる力はありませんが、一緒に食品の中に含まれている果糖やガラクトースなど他の糖質によるむし歯の誘発を止める力はありません。
一時期待されていたキシリトールの再石灰化能も最近の報告では疑問視され、例えキシリトール入りのガムでも、他の糖質が含まれていれば過度に信じることは疑問です。

またガムを噛むことにより、唾液分泌の向上や脳の血行がよくなり脳機能が賦活されることが期待できますが、顎関節症や咬み合わせのアンバランスから歯に
早期接触や咬頭干渉と呼ばれる干渉があり、噛むときに歯や顎に痛みのある方はガムを噛むことは厳禁です。

特に口を開けるときに顎の関節が鳴ったり(関節雑音)、関節や噛む筋肉に痛みがある方は、チューインガムを噛んではなりません。

6. 健康のために酢を飲んでいます。

⇒ クエン酸は疲労回復、ダイエット、血液をさらさらにするなどの効能が期待され、黒酢、もろみ酢、リンゴ酢などを飲む健康法を実践されている方は多いことと思います。
確かに健康のためには良さそうですが、酢を飲むときに気をつけなければならないことは、その飲み方です。

エナメル質はPH5.5程度、象牙質はPH6.7程度で溶けてしまいますが、クエン酸は 水   50mにクエン酸1.0gを溶かすとPH 2.8、
水 1000mlにクエン酸0.1gを溶かしてもPH 5.1になり、かなり希釈してもエナメル質を酸蝕するので飲用には工夫が必要です。

健康のために黒酢などを常用されている方で、エナメル質が腐食し、知覚過敏やむし歯になっている方は多く、薬局で市販されている
ゼラチンカプセルに入れて飲むなどの工夫が必ず必要になります。

○ 「本能的な歯磨きだけではむし歯や歯周病は防げない。正しい歯磨きと食習慣と禁煙で初めてむし歯や歯周病を防ぐことができる。」

むし歯や歯周病などの生活習慣病を何かひとつの簡単なアイテムで予防することは実際には困難です。歯や歯肉を傷めない正しい歯磨きやデンタルフロスの使用、
間食回数の低減、禁煙、フッ素、定期検診と専門的清掃などを組み合わせて初めて防ぐことができます。

すべて安全と健康に安直な近道はないのは歯科疾患でも同じです。

正しい効果的な歯磨き習慣を習得するためには、歯垢染色剤で歯垢を染め出し、明るい洗面所で鏡を用いて取り残した歯垢を直接目で確認して除去することが効果的です。
自分の歯磨きの方法の弱点を知り、それを補うプラークコントロールを続けることで出費と時間を節約し、なおかつ快適なQuality of Life を保つことができます。

具体的な方法についてはかかりつけの歯科医院でご相談ください。

※ 本稿は決して歯磨剤やキシリトール業界の予防歯科的な努力を誹謗・中傷するものではありません。プラークコントロールで陥りやすい陥穽を見直すことにより、
より良い国民の健康生活に寄与することを目的としていることをご理解ください。