№119「歯科衛生士の職務範囲」できるお姉さんは好きですか?
本文へジャンプ 10月20日 
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       №119「歯科衛生士の職務範囲」できるお姉さんは好きですか?



 昨年の春から、昔、小学生の時に矯正治療をした患者さんが新規の歯科衛生士さんとして当院に勤務してくれています。歯並びの治療中に、『大きくなったら歯医者さんか歯科衛生士さんになって、ここに勤めてくれない?』と冗談を言っていたら、瓢箪から出た駒と言いますか、本当に勤めてくれることになり、彼女の矯正治療がうまくいって本当によかったと喜んでいます。

愛らしかった小学生が、勤務してから一年が過ぎた今では、たいていのことは何でも安心して任せられる頼もしい戦力として、生き生きと患者さんに接してくれています。

歯科医院に行くと、やさしい歯科衛生士さんが不安を和らげてくれ、親切にブラッシングのチェックやお口の清掃をしてくれた経験があるものと思われます。このやさしいお姉さん達は実際にはどんな仕事をしているのでしょうか?

歯科医療の進歩に従い、歯科衛生士(hygienists)へ期待される職務内容も徐々に変わってきています。

歯科診療の介助には、医科の准看護師さんにあたる歯科助手さんと看護師さんに相当する歯科衛生士がいます。歯科衛生士は系統的な2年間以上の専門教育を受けた口腔衛生指導の専門家であり、様々の歯科診療の場面で活躍する専門性の高い職業です。

 平成20年6月16日、日本歯科医学会の歯科衛生士業務に関わる検討会が「歯科衛生士の診療の補助業務についての考え方」について次のような見解を発表しました。

『歯科衛生士業務については、歯科衛生士法を所管する厚生労働省医政局歯科保健課に一義的に法的解釈権があり、事態によっては司法が判断を下すものである。今回、歯科医学会の示す歯科衛生士の診療の補助業務についての考え方は、歯科医療における学問的権威の見解であり、それがそのまま法的な規範となるものではないが、各方面においてその見解が尊重されることになるものと思慮するものである。』(日本歯科医学会の歯科衛生士業務に関わる検討会)

以下に資料を載せますが、本当に厚労省がこれらの項目をすべて認めてくれれば、歯科衛生士の職務範囲の拡大、専門性の深化、歯科衛生士教育カリキュラムの見直し、卒後教育へのモチベーションにつながり、結果として歯科医療の質と安全性の向上につながるものと期待しています。心から関係者の一層のご理解をお願いする次第です。

○ 歯科衛生士の経験・能力が高い歯科衛生士ができる診療補助の内容(相対的歯科医行為)
http://staff.dscyoffice.net/081006.htm(参照ホームページ)

1. 以下の印象採得 診断用模型の印象採得、上部構造の対合歯の印象採得、支台歯形成の前準備(歯肉圧排)、小児インレー窩洞の印象採得、スプリント用印象採得、間接リライニング用の印象採得などが挙げられているが、クラウン・ブリッジの精密印象は認められていません。

2. 以下の咬合採得 研究用模型やクラウン、ブリッジの咬合採得

3. 調整 テンポラリークラウン、インレー、クラウンの調整

4. 試適 トレーの試適、インレー・クラウン・ブリッジの試適

5. 仮着 仮封、インレー・クラウン・ブリッジ、インプラント上部構造物の試適

6. 合着 クラウンの合着、インレーなどの合着、ブリッジの合着、インプラント体とアバットメントの固定、アバットメント同士の固定

7. 研磨 義歯床の研磨、形成修復物の研磨、インレーなどの研磨、上部構造の研磨、成形充填材の研磨

8. スケーリング等 小児口腔内診察前の歯面清掃、歯面、根面研磨(PMTCなど)、歯石除去(縁上)、スケーリング・ルートプレーニング(縁下)(SRP)、インプラント体周囲のスケーリング

9. 検査・モニタリング 顎機能検査機器等の操作補助、血糖値測定、ブラケット等脱落のチェック、歯周組織検査(動揺度、付着歯肉、歯間離開度検査等)、モニタの装着(血圧、心電図、パルスオキシメータ)、歯式の確認、記入、血圧測定、口腔乾燥の検査(ガムテスト等)、咬合圧検査(デンタルプレスケール、咬合圧計等)、口臭検査、唾液検査(ガムテスト等)、チェックバイト、チェックバイト、笑気鎮静法時のモニタリング、直腸体温計挿入、静脈内鎮静法時のモニタリング、インプラント周囲のプロービング、インプラント体の動揺度検査、嚥下機能検査(息ごらえ、反復水飲みテスト・嚥下音の聴診等)、義歯不適合部の確認と検査、心理テスト(心身症・認知症。うつ病等の把握など)、動能力の検査、ゴシックアーチ描記、適合検査、構音機能検査、歯髄検査、歯列の検査、咀嚼機能検査、咬合接触検査、齲窩の電気抵抗値測定、細菌培養検査での根管からの検体採取、顎運動検査、電気的根管長測定器の使用など

10. 除去撤去 歯間分離器具(セパレーター)の装着、撤去、修復物装着前の仮封材またはTekの除去、ラバーダムの装着、撤去、歯肉包帯(除去)、アーチワイヤーの結紮、撤去、ボンディング材撤去後の清掃、仮着用セメントの除去、暫間固定(エナメルボンド等、除去)、マルチブラケット装置のブラケット撤去、顎間固定の解除(金属線切断、ゴム除去等)、歯牙結紮線の除去(シーネ等)、歯髄処置時の仮封又は仮封材の撤去、修復物の除去、バンドループ・リンガルアーチ・ホールディングアーチの撤去、外傷暫間固定装置の除去

11. 表面麻酔 局所麻酔時の表面麻酔薬の塗布、ラバー装着時の表面麻酔薬の塗布

12. 浸潤麻酔 浸潤麻酔(スケーリング等歯科衛生士業務遂行のため必要な場合)

13. 静脈路 輸液剤の交換・輸液速度の調節、血糖値測定(指先より採血)、採血、末梢静脈路の確保、皮下・皮内・筋肉内注射、全身麻酔時の採血






14. 聞き取り・医療面接 健康調査表(問診票)記入の補助(聞き取りして記載)、初診時の食生活調査(聞き取り)、処方箋の口述記載、問診表の記入の補助(聞き取りして記入)、手術同意書作成、インプラント体の発注、CT・MRI等の検査前の患者への説明、顎関節症のアンケート実施、手術後の注意事項説明、既往歴の聞き取り、主訴の聞き取り、初診時の健康検査票の記載事項の確認を行い歯科医師に伝える、歯科衛生診断(歯科衛生士業務遂行のため必要な診断)のための問診、医療面接、口腔内の概診、口腔外の診察(顔貌・構音・機能上の習慣などの診察なので敢えて分類すると「検査」でしょうか)、手術前の注意事項の説明、治療経過の問診

15. 洗浄・貼薬 歯周外科後処置(その他)、インプラント埋入部位の消毒、インプラント上部構造の除去と清掃、歯周外科後処置(抜糸)、軟膏塗布、歯周ポケット内の洗浄と貼薬、LDS(ペリオクリン)、根管の洗浄・乾燥、根管貼薬、歯髄鎮痛消炎剤貼付、脱臼歯の固定後の洗滌(歯面清掃を含む)、埋伏歯抜去等大きな外科処置後の洗滌、顎関節腔洗浄治療

16. リハビリ・在宅 摂食機能療法・間接訓練、摂食・嚥下機能障害の歯科的介入、口腔リハビリテーション、摂食機能療法・直接訓練、摂食・嚥下機能障害の間接訓練、顎間固定後や術後の開口訓練、専門的口腔ケア、筋機能療法(MFT)、言語治療の訓練、床型咬合誘導装置の装着指導、口腔内と気管内吸引(口腔内・鼻腔内・気管内の吸引)、自宅療法の確認・再指導、摂食訓練時の気切部気管吸引、生活指導

17. 医薬品の授与・指示 投薬時の薬剤と投与方法の確認、投与薬剤、投与法の確認と説明

18. その他の診療補助(頻度の高いもの) 象牙質知覚過敏症での薬剤貼付、象牙質知覚過敏症でのイオン導入、抜糸、エッチング・ボンディング操作、感染根管でのイオン導入、成形充填材の填塞

19. その他の診療補助 セファロトレース/分析、物理的/神経生理学的行動調整、フェースボウトランスファー、歯肉包帯、歯科インプラント上部構造の脱着(口腔ケアのため)、術後創部の圧迫固定(伸縮包帯等による)、尿道カテーテル留置、粘膜調整材の貼付、ヒーリングキャップの装着、皮膚創部のガーゼ交換(包交)、インプラント上部構造の再装着(咬合状態は歯科医師が確認)、咽頭部の吸痰、薬剤の投与(静注、挿肛等-吸入鎮静法時の亜酸化窒素濃度の調整および静脈内鎮静法時の薬物の追加投与等を含む)、心理学的行動調整・TEACCH、ホワイトニング、歯周ポケットの掻爬、栄養チューブの挿入、気管内吸引(術後管理や口腔ケア時の経鼻的、挿管チューブ経由)、挿管チューブのカフ圧調節(口腔ケア時)、救急救命処置、人工呼吸器の管理と操作、挿管チューブのカフ圧の調整(口腔ケア実施時)、バンディング、マルチブラケット装置のブラケットボンディング、マルチブラケット装置の主線交換、予防的レジン修復、人工呼吸器の管理、デブライトメント・ディプラーキング、口腔がん末期患者の緩和ケア看護師と同等の業務、手用器具による軟化象牙質除去、補綴での全身的診察、誘導様式の検査

○ 周知の如く、歯科衛生士法の第2条に規定されている歯科衛生士の職務範囲は以下のように規定されています。

第2条(定義)
この法律において「歯科衛生士」とは、厚生大臣の免許を受けて、歯科医師(歯科医業をなす事のできる医師を含む。以下同じ。)の直接の指導の下に、歯牙及び口腔の疾患の予防処置として次に掲げる行為を行うことを業とする女子を言う。
一 歯牙露出面及び正常な歯茎の遊離縁下の付着物及び沈着物を機械的操作によって除去すること。
二 歯牙及び口腔に対して薬物を塗布すること。
2 歯科衛生士は保健婦助産婦看護婦法第31条第1項及び第32条の規定にかかわらず、歯科診療の補助をなすこと業とする事ができる。
3 歯科衛生士は、前2項に規定する業務のほか、歯科衛生士の名称を用いて、歯科保健指導をなすことを業とすることができる。

このうち『歯科診療の補助をなすこと業とする事ができる。』の解釈が問題になるわけです。歯科医療の質と範囲、歯科医療に対する社会の要望、歯科医師、歯科衛生士の現実的な能力と実績が実際の法律の運用を決めていくわけです。

歯科衛生士は昭和23年制定の歯科衛生士法に基づく厚生労働大臣免許の国家資格です。従来教育期間が2年間の短大に準じた教育体制が主体でしたが、現在3年制への移行が進み、より専門的な能力を持つ歯科衛生士が歯科臨床に係わることが期待されています。

もし社会的に日本医学会の答申した歯科衛生士の職務範囲がすべて認知され、医療サイドも高機能歯科衛生士を活用できるチーム医療を確立できれば、歯科医療自体の圧倒的なレベルアップが図れ、国民の皆さんの受ける恩恵もより豊かなものになるはずです。

ただしこれらの職務のすべてをカバーするには、一定の職務経験と高い能力が必要とされることには留意する必要があります。したがって将来は歯科医師のように、現在も進行中である歯科衛生士のさらなる専門化、認定歯科衛生士化が進められていくものと予想されます。

将来は、日本でも、全身的な診断能力を持った歯科衛生士さんが歯周病治療の現場において、現在以上に積極的に治療計画に参画し、患者さんの医学的なパソナリティーも考慮しながら食事指導や生活習慣指導を行い、循環動態のモニタリングを行ないながら、歯科医師の監督下で浸潤麻酔を行い、自分に配当された患者さんに対してルートプレーニング(歯肉縁下の歯根面に付着した歯石を取り除き、根面をすべらかにすること)を行なう日がやってくるのではないでしょうか。実際にスウェーデンなど歯科医療の先進国ではすでにあたりまえの風景になっています。

たぶん能力のある歯科衛生士さんに診てもらうために、遠隔地から患者さんが来院される医院が増えるものと思われ、セレブ相手に高度な能力を発揮する歯科衛生士さんはふつうの歯科医師よりも高い収入を得る日がくるのではないでしょうか。

そんな可能性のある職務に育てることが歯科衛生士への道を目指す若者を増やす手がかりになるものと考えています。