№124「眠りの砂」睡眠障害と歯科治療
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      №124「眠りの砂」睡眠障害と歯科治療




ひっそりと小さな砂男が窓から覗く 
Sandmännchen kommt geschlichenund guckt durchs Fensterlein,

どこかにまだ眠らない子供がいないかと
ob irgend noch ein Liebchennicht mag zu Bette sein.

眠らない子供を見つけたら、その子の目に砂を入れる
Und wo er nur ein Kindchen fand,streut er ihm in die Augen Sand.

眠れ、眠れ、愛しい幼子よ、眠れ
Schlafe, schlafe, schlaf du, mein Kindelein!

※「眠りの精」 ブラームス 作曲(Sandmännchen Musik von Johannes Brahms)

 「眠り」は一日の慰めであり、魂の休息でもあり、毎日繰り返される小さな死と復活の儀式でもあります。

脳が特異的な進化を果した高等生物では、大脳を休ませ、その機能を調整するめに、睡眠は欠かすことのできない本能行為であり、強制的な断眠が続けば死に直面することになる必要不可欠な行為です。

眠っている間は敵に寝首をかかれるかもしれず、何も有益な生産活動も行なえないにもかかわらず、体内時計による神経調節機構と様々の睡眠物質による液性機構の二つの高度に発達したシステムにより、私達は脳を休ませるために必ず睡眠がとれるように仕組まれています。

睡眠の意義は脳の休息だけではありません。睡眠の持つ第二の役割として身体の組織の再生・修復と成長の促進があります。

睡眠中に脳下垂体前葉のGH産生細胞から放出される成長ホルモン(growth hormone、GH)は眠りに入った最初の3時間の間に集中的に分泌されます。

成長ホルモンは、細胞を再生、修復させる機能があり、幼児期においては骨端の軟骨細胞の分裂・増殖を盛んにして骨を伸長させ、また筋肉の蛋白質合成を盛んにし、筋肉を成長・発育させます。したがって深い睡眠は子供が大きく成長するために大切な役割を担っています。

また成長ホルモンは炭水化物、タンパク質、脂質の代謝を促進し、血糖値やカルシウム濃度を一定に保ち、エネルギーが不足していれば体内の脂肪組織を分解します。もし十分な眠りがとれないために、成長ホルモンの分泌が不足すると、体内に老廃物が溜まりやすく、血管が詰まりやすくなり、皮膚や粘膜が新しく生まれ変わりません。歯肉の新陳代謝も低下してしまいます。

第三の睡眠の意義は免疫の増強です。体内に侵入したウイルスや細菌が免疫機構により破壊され分解されると、その分解により生じた物質がインターロイキン1やインターフェロンなどのサイトカイン(細胞が作り出す蛋白質で、細胞に働きかけ、細胞の分化、増殖など色々な機能を行なわせます。)の産生を促します。

その結果、体内の免疫学的な生体防御反応が誘発され、身体は発熱し、深いノンレム睡眠を導きます。睡眠不足があれば身体が弱り、風邪など様々な感染症にかかりやすくなってしまいます。
(ノンレム睡眠とレム睡眠:眠りの深さにより脳波のパターンが異なることはよく知られています。人は入眠するとまず深い熟睡状態に入り、この状態を徐波睡眠またはノンレム睡眠と呼びます。ノンレム睡眠は脳が休息している状態と考えられ睡眠の深さと特徴的な脳波から4段階に分かれますが、筋肉は働いています。約90分経過すると眠りは浅くなり、身体は眠っていても脳が起きているような状態になります。一晩の間にノンレム睡眠とレム睡眠のサイクルを4~5回繰り返えします。この状態の睡眠をレム睡眠と呼び、その名前は閉じたまぶたの下で眼球が急速に動くことから名づけられています。つまり急速眼球運動rapid eye movement/REMからレム睡眠と呼ばれています。レム睡眠は進化の初期の段階で原始睡眠から最初に分化した古い眠りで、ノンレム睡眠はその後分化した新しい眠りであると言われています。レム睡眠中は記憶の整理が行われるとされ、歯ぎしりやいびきはレム睡眠を中心に現れると言われています。)

さらに睡眠の持つ第4の意義として、体内からストレス物質を除去する役割があります。

起きて活動していれば、体内や脳内に活性酸素による酸化ストレス(注1)が蓄積していきます。酸化ストレスは主要な抗酸化酵素(スカベンジャー)であるスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)やグルタチンペルオキシダーゼ(GPX)により取り除かれますが、覚醒が続くとこれらの抗酸化酵素が少なくなり、増えた酸化ストレスが遺伝情報を伝えるDNAを損傷し皮膚や臓器の老化、物忘れ、癌や動脈硬化、糖尿病などの様々な病気を引き起こします。

また睡眠物質のひとつであるグルタチオンは活性酸素に電子を与えて無害化すると言われています。

このように眠りは神経細胞から発生する活性酸素を分解し、神経細胞の機能を回復させると同時に、ストレスの原因になる有害物質を除去してくれます。

慢性的な疲労感や、側頭部や後頭部の頭痛、風邪をひきやすい、物覚えが悪い、肌荒れなどの自覚がある場合、まず良質な睡眠がとれているかどうかをチェックする必要があります。

○ 睡眠障害の種類について



 24時間眠らない都市生活の中で、現代人の睡眠時間は益々短くなり、労働基準法の改正により女性の深夜・早朝勤務など交代勤務が許可された結果、生体リズムに反した深夜・早朝労働を強いられる人も増え、労働者の30%が不規則な勤務状態にあると推測されています。

幼児や学童でも親の夜型ライフスタイルにつき合わされて、就寝時刻が深夜になっている家庭が次第に増え、日本人の生活スタイルは徐々に夜型に移行しています。

もともと人類は生物学的に、ライオンやカバなどの夜行性哺乳類には属さず、アジアゾウやチンパンジー、ミーアキャットやローランドゴリラなどと同じ昼行性哺乳類であり、日の出とともに活動を開始し、日が沈むと休息をとるように身体がつくられています。

原モグラと呼ばれる原始哺乳類は夜行性であり、人類の祖先は進化に伴い夜行性から昼行性へ変わったと言われていますので、現代人の夜型ライフスタイルはある意味、地上を支配する大型爬虫類の脅威から隠れるように日の射さない地下でうごめいていた時代への先祖返りと言えるかもしれません。

NHKの「2005年国民生活時間調査報告書」(http://www.nhk.or.jp/bunken/research/life/life_20060210.pdf)によれば、日本人の睡眠時間は、平日は1970年以降、日曜は1980年以降、一貫して減少傾向にありましたが、2005年度調査で下げ止まり状態にあり、これは週休2日制が定着した影響であるとしています。



慢性の睡眠不足や夜型のライフスタイルは、熟眠感の喪失などの睡眠障害を招きやすく、覚醒時の眠気、注意力・記憶力・学習能力の低下、疲労感、食欲低下、抑鬱感などを自覚症状とする「概日リズム睡眠障害」を引き起こします。

夜型生活は過栄養と運動不足から生活習慣病の原因になりやすく、睡眠障害による日中のパフォーマンスの低下やマイクロスリープは、1986年のチェルノブイリ原子力発電所の爆破事故や同年のスペースシャトル「チャレンジャー号」の打ち上げ失敗、1979年スリーマイル島原発事故、1989年のアラスカ沖巨大タンカー座礁事故など重大な産業事故を引き起こす原因になっています。
⇒http://sumin-genki.silk.to/cat0001/1000000002.html

睡眠障害の症状は以下の4つに分類されています。(「睡眠の正常と異常」大熊照雄・宮本忠男編集 日本評論社 頁50~51)

1. 不眠:入眠障害、途中覚醒、早朝覚醒。熟眠できない。
2. 過眠:夜間睡眠をとっているにもかかわらず、昼間に強い眠気を感じ眠ってしまう状態。
3. 概日リズム睡眠障害:睡眠時間帯が通常とは大幅にずれているために社会生活に支障をきたすもの。交代勤務や時差症候群。
4. 異常行動:睡眠中に見られる夢中遊行や夜驚症などの異常行動。



次にちょっと長くなりますが、睡眠障害の国際基準として用いられている分類を紹介しましょう。(⇒http://www.sleepdoc.or.jp/icsd.pdf)

○「国際睡眠障害分類」(ICSD/INTERNATIONAL CLASSIFICATION OF SLEEP DISORDERS)1990年

A軸系
1. 睡眠異常 DYSSOMNIAS

A. 内因性睡眠障害 Intrinsic Sleep Disorders

1.精神生理性不眠症 Psychophysiological Insomnia 307.42-0
2.睡眠状態誤認 Sleep State Misperception 307.49-1
3.特発性不眠症 Idiopathic Insomnia 780.52-7
4.ナルコレプシー Narcolepsy 347
5.間欠性(周期性)過眠症 Recurrent Hypersomnia 780.54-2
6.特発性過眠症 Idiopathic Hypersomnia 780.54-7
7.外傷後性過眠症 Posttraumatic Hypersomnia 780.54-8
8.閉塞性睡眠時無呼吸症候群Obstructive Sleep Apnea Syn. 780.53-0
9.中枢性睡眠時無呼吸症候群Central Sleep Apnea Syndrome 780.51-0
10.中枢性肺胞低換気症候群Central Alveolar Hypoventilation Syndrome 780.51-1
11.周期性四肢運動障害 Periodic Limb Movement Disorder 780.52-4
12.レストレス・レッグ 症候群 Restless Legs Syndrome 780.52-5
13.特定不能な内因性睡眠障害Intrinsic Sleep Disorder NOS 780.52-9

B.外因性睡眠障害 Extrinsic Sleep Disorders

1.不適切睡眠衛生 Inadequate Sleep Hygiene 307.41-1
2.環境性睡眠障害 Environmental Sleep Disorder 780.52-6.
3.高度不眠症 Altitude Insomnia 289.0
4.適応 睡眠障害 Adustment Sleep Disorder 307.41-0
5.不十分睡眠症候群 Insufficient Sleep Syndrome 307.49-4
6.限度設定睡眠障害 Limit-Setting Sleep Disorder 307.42-4
7.入眠時随伴障害 Sleep-Onset Association Disorder 307.42-5
8.食物アレルギー性不眠症 Food Allergy Insomnia 780.52-2
9.夜間摂食症候群 Nocturnal Eating (Drinking) Syndrome 780.52-8
10.催眠剤依存性睡眠障害Hypnotic-Dependent Sleep Disorder780.52-0
11.刺激剤依存性睡眠障害Stimulant-Dependent Sleep Disorder780.52-1
12.アルコール依存性睡眠障害Alcohol-Dependent Sleep Disorder 780.52-3
13.毒物因性睡眠障害 Toxin-Induced Sleep Disorder 780.54-6
14.特定不能の外因性睡眠障害Extrinsic Sleep Disorder NOS 780.52-9

C. 概日リズム性睡眠障害

1.時差帯域移動症候群(ジェット時差症候群)Time Zone Change (Jet Lag) Syndrome 307.45-0
2.交代勤務睡眠障害 Shift Work Sleep Disorder 307.45-1
3.不規則型睡眠覚醒障害 Irregular Sleep-Wake Pattern 307.45-3
4.睡眠相遅延症候群 Delayed Sleep Phase Syndrome 780.55-0
5.睡眠相前進症候群 Advanced Sleep Phase Syndrome 780.55-1
6.非24時間型睡眠覚醒障害Non-24-Hour Sleep-Wake Disorder 780.55-2
7.特定不能の概日リズム性睡眠障害Circadian Rhythm Sleep Disorder NOS 780.55-9


2.睡眠時異常行動 PARASOMNIAS

A. 覚醒障害 Arousal Disorders

1 もうろう覚醒 Confusional Arousals 307.46-2 錯乱覚醒
2.睡眠遊行症 Sleepwalking 307.46-0 夢遊病
3.睡眠驚愕症 Sleep Terrors 307.46-1 夜驚症

B.睡眠覚醒移行障害 Sleep-Wake Transition Disorders

1.律動性運動障害 Rhythmic Movement Disorder 307.3
2.睡眠跳起症 Sleep Starts 307.42-2
3.寝言 Sleep Talking 307.42-3
4.夜間むずむず脚 Nocturnal Leg Cramps 729.82 むずむず脚症候群

C. 通常REM睡眠に伴う睡眠時異常行動Parasomnias Usually Associated with REM Sleep

1.悪夢 Nightmares 307.47-0
2.睡眠麻痺 Sleep Paralysis 780.56-2
3. 睡眠関連陰茎勃起不全  Impaired Sleep-Related Penile Erections 780.56-3
4.睡眠関連疼痛性勃起 Sleep-Related Painful Erections 780.56-4
5.REM睡眠関連洞停止 REM Sleep-Related Sinus Arrest 780.56-8
6.REM睡眠行動障害 REM Sleep Behavior Disorder 780.59-0

D. その他の睡眠時異常行動 Other Parasomnias

1.睡眠歯ぎしり症 Sleep Bruxism 306.8
2 .睡眠遺尿症 Sleep Enuresis 780.56-0 夜尿症
3.睡眠関連異常嚥下症候群 Sleep-Related Abnormal Swallowing Syndrome 780.56-6
4.夜間発作性ジストニア NocturnalParoxysmalDystonia 780.59-1
5.説明不能な夜間突然死症候群Sudden Unexplained Nocturnal Death Syndrome 780.59-3
6.原発性いびき Primary Snoring 780.53-1
7.小児睡眠時無呼吸 Infant Sleep Apnea 770.80
8.先天性中枢性低換気症候群Congenital Central Hypoventilation Syndrome 770.81
9.小児突然死症候群 Sudden Infant Death Syndrome 798.0
10.良性新生児睡眠ミオクローヌスBenign Neonatal Sleep Myoclonus 780.59-5
11.その他の特定不能な睡眠時異常行 Other Parasomnia NOS 780.59-9Page


3.身体疾患や精神障害に伴う睡眠障害

A. 心の障害に伴う睡眠障害Associated with Mental Disorders 290-319

1.精神病 Psychoses 292-299
2 .気分障害 Mood Disorders 296-301
3.不安障害 Anxiety Disorders 300
4.恐慌性障害 Panic Disorder 300
5.アルコール依存症 Alcoholism 303

B.神経学的障害に伴う睡眠障害 Associated with Neurological Disorders 320-389

 1.大脳変性性障害 Cerebral Degenerative Disorders 330-337
2.痴呆症 Dementia 331
3.パーキンソン病 Parkinsonism 332-333
4.致死性家族性不眠症 Fatal Familial Insomnia 337.9
5.睡眠関連てんかん Sleep-Related Epilepsy 345
6.睡眠時電気的てんかん重積Electrical Status Epilepticus of Sleep345.8
7.睡眠関連頭痛 Sleep-Related Headaches 346

B. 他の身体疾患に伴う睡眠障害 Associated with Other Medical Disorders

 1.眠り病 Sleeping Sickness 086
2.夜間型心筋梗塞 Nocturnal Cardiac Ischemia 411-414
3.慢性閉塞性肺疾患Chronic Obstructive Pulmonary Disease 490-494
4.睡眠関連喘息 Sleep-Related Asthma 493
5.睡眠関連食道胃逆流Sleep-Related Gastroesophageal Reflux 530.1
6.胃潰瘍症 Peptic Ulcer Disease 531-534
7.繊維筋炎性症候群 Fibrositis Syndrome 729.1


4.思案中の睡眠障害 PROPOSED SLEEP DISORDERS

1.短時間睡眠者 Short Sleeper 307.49-0
2.長時間睡眠者 Long Sleeper 307.49-2
3.亜覚醒症候群 Subwakefulness Syndrome 307.47-1
4.断片型ミオクローヌス Fragmentary Myoclonus 780.59-7
5.睡眠時発汗症 Sleep Hyperhidrosis 780.8
6.月経時随伴睡眠障害Menstrual-Associated Sleep Disorder 780.54-3
7.妊娠時随伴睡眠障害Pregnancy-Associated Sleep Disorder 780.59-6
8.恐慌型入眠時幻覚Terrifying Hypnagogic Hallucinations 307.47-4
9.睡眠関連神経因性呼吸促迫Sleep-Related Neurogenic Tachypnea780.53-2
10.睡眠関連喉頭けいれんSleep-Related Laryngospasm 780.59-4
11.睡眠時窒息症候群 Sleep Choking Syndrome 307.42-1

※ 「その他の睡眠時異常行動」に分類されている「睡眠歯ぎしり症 Sleep Bruxism」と「睡眠関連異常嚥下症候群 Sleep-Related Abnormal Swallowing Syndrome」は特に歯科医療と関係が深い病気として注目されます。
※ より簡略化した睡眠障害の分類としては次のICD-10が用いられます。⇒http://www.mhlw.go.jp/toukei/sippei/index.html

・「WHOによるICD-10」(国際疾病分類第10版)の第6章 神経系の疾患(G00-G99)

G47  睡眠障害
 G47.0  睡眠の導入及び維持の障害[不眠症]
 G47.1  過度の傾眠[過眠症]
 G47.2  睡眠・覚醒スケジュール障害
 G47.3  睡眠時無呼吸
 G47.4  ナルコレプシー及びカタプレキシー
 G47.8  その他の睡眠障害
 G47.9  睡眠障害,詳細不明

※ 睡眠障害と一言で括っても、非常に多岐に渡っていることに驚きます。

「厚生省精神・神経疾患委託研究費による睡眠障害の疫学、診断・治療に関する研究班」の1994~1995年の調査によれば、病院外来患者の三人に一人が過去に睡眠の問題に困った経験があるそうです。

病院に訪れる患者さんの全般のうち、入眠困難が9.2%、途中覚醒が9.8%、早朝覚醒が8.0%、日中の耐え難い眠気が6.2%であり、眠るための補助手段として普段から、睡眠薬、精神安定剤、お酒などを飲んでいる人が成人の10~20%に達しているそうです。

歯科診療室を訪れる患者さんの10~20%が睡眠薬、精神安定剤、お酒などを飲んでいるわけで、睡眠薬、精神安定剤の抗コリン作用による口渇・唾液分泌障害、晩酌に起因する多発性むし歯や歯周病の進行に注意を払う必要があります。

慢性的不眠の傾向は年齢とともに増加する傾向を示し、特に50代以上の中高年男性の20%から30%では、睡眠中の呼吸が止まったり、大きないびきをかいたりなどの睡眠時呼吸障害が認められます。

この他、女性では更年期障害として、身体のほてりや発汗とともに中途覚醒が起きやすく、高齢者では夜間頻尿による中途覚醒、むずむず足症候群などが起きやすくなり、20代から30代の若者では日中の眠気やパフォーマンスの低下が問題となります。
強いストレスを感じている人は、ストレスを感じていない人に比べ、1.5倍から3倍程度睡眠障害が起りやすいと言われ、ハイパーストレス社会である現代に睡眠障害が増えている背景となっています。


○ 睡眠障害と歯科治療



初診時に、患者さんの主訴・副訴、性別、年齢、職業、既往歴や投薬歴、特に喘息や薬物アレルギーの有無、肩こり・頭痛や顎関節雑音、開口障害の既往の有無、月経の有無、閉経の有無、妊娠の可能性、授乳の有無、過去の歯科治療歴(大学病院等の高次歯科医療機関での治療の有無、歯科矯正治療の有無)、生活習慣(食生活習慣・飲酢、サプリメントや運動習慣、口腔衛生習慣、楽器の演奏、かみしめ、歯ぎしり、睡眠態癖などの習癖など)、歯科治療への適応(歯科恐怖症の有無など)、健康観、現在の自分の健康状態に対する自己評価、通院や歯科治療への意欲を網羅して問診することは、患者さんの口腔疾患を全身的、社会的背景から診断する基礎になります。

この他に睡眠障害の有無についての問診も欠かしてはならない重要な項目になります。

1.すぐに眠れますか? 眠れる 眠れない 眠れるが睡眠薬や精神安定剤を飲んでいる

2.起床時に充分眠れた感じ(熟眠感)がありますか? ある ない 時々ない

3.入眠剤や精神安定剤、抗うつ剤などを使っている方は、
  
  ・何を使っていますか? マイスリー、デパス、ハルシオン、セレネース、パキシル、デプロメール、トレドミン、その他(         )

・どの医療機関から処方されていますか?(             )

・ 何年前から使っていますか?
      を  年前から使用。
    を  年前から   年前まで使用。    

5. 途中で目が覚めることがありますか? ない ある(毎日必ず、1~2回/週、3~4回/週、5回~6回/週)

6. だいたいの就寝時刻と起床時刻は? 就寝時刻     起床時刻      

7. 朝早く目が覚めすぎることはないですか? ある  ない

8. 起床時に首の後ろに痛みがあるか、頭痛や筋肉の疲労感を感じることがありますか? ある(              ) ない  

9. 最近、怖い夢をよく見ますか? 見る 見ない

10. 就寝中に歯ぎしりをしていると言われた経験や自覚がありますか? ある ない

11. いびきをかきますか? 必ずかく  疲れたときやお酒を飲んだときにかく 昔はかいたが今はかかない  かかない  分らない

12. 深夜勤務や早朝勤務をしていますか? している(  年前から  準夜勤制  完全夜勤   交代制    その他) していない

「国際睡眠障害分類」のD. その他の睡眠時異常行動 Other Parasomniasに分類される「歯ぎしり」や「いびき」は歯科治療に深い関わりがあります。

前述のように睡眠障害があれば、新陳代謝が低下し、傷口の治癒の遅れが起きやすく、代謝障害(肥満や糖尿病など)や免疫力の低下による歯周病やその他の感染症の悪化が起りやすくなると考えられますので、歯科治療の密度やメンテンス間隔を調節する必要が出てきます。

また、入眠剤を使っている場合は、抗コリン作用による口渇が招くむし歯や歯周病への影響を考えなければなりません。

「いびき」は睡眠時無呼吸症候群(SAS)の症状である場合があり、SASに伴う強い噛みしめや歯ぎしりの有無を考えます。

「歯ぎしり」や「いびき」は睡眠時随伴症(パラソムニア)と呼ばれる睡眠障害の一種です。

成人が歯を失う原因の50%は歯周病であり、次がむし歯ですが、その次に考慮しなければならない原因が実は強い歯ぎしりや噛みしめです。

就寝中の強い歯ぎしりや噛みしめは、歯の磨り減りや歯冠・歯根破折の他に、頭痛
起床時の肩こり、顎関節痛、顎関節の破壊、筋肉の痛み、舌や頬粘膜の圧痕、骨隆起、
歯肉退縮、知覚過敏、歯痛、冠や充填物の破壊、アブフラクション(歯茎に近いエナメル質のクサビ状欠損)などの原因になります。

「睡眠の正常と異常」(大熊照雄・宮本忠男編集 日本評論社 頁122~123)によれば、
「一生の間には85~90%の人が多少の歯ぎしりをすると言われている。そのうちの約5%が医学的に問題になる状況までに至る。
子供は大人と同頻度で歯ぎしりが起ると思われるが、詳細は分っていない。
大人の歯ぎしりは通常、10歳~20歳で始まる。正常発育の小児の半分以上に歯ぎしりが見られ、平均発症年齢が10.5歳で、乳歯が抜けた直後の時期にあたる。
歯ぎしりはときに家族性に生じると報告されている。歯ぎしりをする親の子供は、歯ぎしりをしない親の子供よりも歯ぎしりをする確率が高いようである。
合併症としては、歯の異常な磨耗をともなう歯の損傷が最も頻度の高い徴候であり、歯周囲組織への損傷も起る。咀嚼筋の肥大が起り、そしてしばしば顔面痛を伴う側頭上顎関節障害が生じる。」とあります。

歯ぎしりの詳細と治療、いびき症と歯科疾患とのかかわりについては別稿に譲りますが、睡眠障害はお口の健康上、身体に重大な損害をもたらす危険があることについてご理解いただけると思います。

この他にも睡眠中のマイクロアスリープ(唾液や口腔内細菌の誤嚥)による嚥下性肺炎の問題もあり、歯科疾患の診断と治療に睡眠障害の知識は欠かすことができない重要性を持っています。

参考文献:「睡眠の正常と異常」(大熊照雄・宮本忠男編集 日本評論社)その他

注1:酸化ストレス:酸化ストレスは生体内で生成する活性酸素群の酸化損傷力と生体内の抗酸化システムの抗酸化ポテンシャルとの差として定義されています。活性酸素群は、本来、エネルギー生産、侵入異物攻撃、不要な細胞の処理、細胞情報伝達などに際して生産される有用なものですが、生体内の抗酸化システムで捕捉しきれない余剰な活性酸素群が生じる場合、生体の構造や機能を担っている脂質、蛋白質・酵素や、遺伝情報を担う遺伝子DNAを酸化し損傷を与え、生体の構造や機能を乱し、病気を引き起こし、老化が早まり、癌や、生活習慣病になりやすくなります。

また、これらの生活習慣病になることで酸化ストレスが増幅されるという悪循環が起き、さらに疾病・老化が進行することになります。(「日本抗酸化学会」ホームページより転載。⇒http://www.jsa-site.com/sanka_storesu.htm)