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№127「とりけせない失敗」医療事故の教訓
Everybody make mistakes. 誰でもが過ちをおかす
Everybody has those days 誰でもが間違える
Everybody knows what 皆が私の言うことを知っている
I'm talking about
Everybody get's that way 誰だってそうだろうということを
(Hannah Montana /Nobody's Perfect「だれも完全ではない」よりhttp://jp.youtube.com/watch?v=RsBEbsdFe4Q )
歯科治療は小さな外科手術の組み合わせですから、ある意味で毎日薄氷の上を渡っているようなところがあります。
充分、注意しているつもりでも、偶然やわずかなヒューマンエラーが積み重なって、予期されないアクシデントが起きることがあり、小さなミスが大きな不慮の事態を引き起こすことがあります。
歯科に関係する医療事故では、
1. 局所麻酔の最中に気分が悪くなり意識が失われる。
2. 治療中に患者さんの血圧が急に上がり脳充血を起す。
3. 外科手術の後、出血が止まらない。
4. 抜歯時に歯槽骨骨折を起すか歯根が深部に迷入する。
5. 抜歯した歯が患者さんの気管に入る。
6. 根の治療中に治療器具が破折し、神経の入っていた根管の中に残る。
7. 根の深いところに付着した歯石を除去した翌日にその周囲の歯肉が腫れる。
8. 歯を削っている最中に歯髄が露出する。
9. 治療に使う劇薬が患者さんの目に入る。
10. 下顎インプラント手術時に周囲の神経や血管を損傷する。
11. 上顎インプラント手術時にインプラントが上顎洞(副鼻腔)内に落迷入する。
12. インプラント手術を行なったが、インプラントが骨と統合しない。(つかない)
13. 冠やアンレーをかぶせるときに誤ってお口の中に落し、患者さんが誤嚥・誤飲する。
14. 痛みの原因でない歯の治療をしてしまう。
15. 口腔癌など重大な疾患を見逃す。
16. 歯を削るときに舌や唇を傷つける。
17. 矯正装置が外れて患者さんを傷つける。
18. 施設内で身体の不自由な患者さんが転倒する。
19. アレルギーの既往のある薬を処方し薬疹がでる。
20. 歯の型を取るときに使う接着剤に患者さんがかぶれる。
等々、数え上げれば限(きり)がありません。ベテランの歯科医師で何らかのアクシデントを一度も経験したことのない先生はほとんどいないものと思われます。
たとえ本人がアクシデントを起さなくても、周囲を固めるスタッフがアクシデントを起すことが考えられ、一見まったく診療室内の事故に関係ない外注技工所の場合でさえも、金属アレルギーの患者さんに、指定した非アレルギー性金属でない金属を誤って使って製作し、重い薬疹を引き起こすこともありえます。
これらのアクシデントの中には、患者さんの心や身体に取り返しのつかない永久的な損傷を残してしまうものもあり、時には患者さんの命を奪ってしまうこともあります。
誰でも医療事故を起そうとして起している人はおらず、患者さんの健康のために奉仕するという気持ちで行なった行為が不測のアクシデントにつながっているわけです。
ある統計によれば、病院に入院した患者さんの4%が医療事故に遭っており、1997年に米国で3360万人以上を数える入院患者に当てはめて推計すると、毎年少なくとも4万4000人、ことによると9万8000人が医療ミスにより病院で死亡していることになるそうです。
また一説によれば、日本においても交通事故の死亡者数(平成19年度5477人)の4倍以上の患者さんが、医療事故でお亡くなりになっている可能性があると推定されています。(参照:「医療過誤原告の会」HP http://www.genkoku.jp/ )
それではこれらのアクシデントを防ぐために、歯科医療機関は何を行うべきでしょうか?
リスクマネージメントの講義では、ふつうひとつのアクシデント(医療事故)の前には数百のインシデント(ひやりはっと事例)が潜在しているとされ、インシデント事例を組織全体で共有し、その発生を予防する対策を実行することで、重大なアクシデントが発生することを防ぐことができると説明しています。
橋下徹(はしもととおる)知事が就任した大阪府の発行している「医療事故防止対策ガイドライン」によれば、「医療事故防止の基本事項」として次の項目を挙げています。
(1) 医療従事者は常に「危機意識」を持ち、業務にあたる。
(2) 患者最優先の医療を徹底する。
(3) 医療行為においては、確認・再確認等を徹底する。
(4) 円滑なコミュニケーションとインフォームド・コンセントに配慮する。
(5) 記録は正確かつ丁寧に記載し、チェックを行う。
(6) 情報の共有化を図る。
(7) 医療機関全体で、医療事故防止への組織的、系統的な管理体制を構築する。
(リスクマネージメントの必要性)
(8) 自己の健康管理と職場のチームワークを図る。
(9) 医療事故防止のための教育・研修システムを整える。
(10) トップ自らが率先して医療事故防止に対する意識改革を行う。
このうち、医療者の基本的な心構えである部分は当然として、情報の共有化、組織的なリスクマネージメントの体制、教育・研修システムをそれぞれの医療機関で、整備・実施することにアクシデント防止の鍵があります。
具体的には、「医療事故防止対策委員会」を設置し、具体的で実効性のある「医療事故防止対策マニュアル」を作成、実行することになります。
小規模医療機関において、この種の対策実施で一番陥りやすいケースは、最初だけ委員会を立ち上げマニュアル作成を開始しても、結局はそれが長続きせず、具体的な成果にむすびつかないことです。
そこで成功するためには、毎日、朝礼などで、係りの者を決めておき、必ず短時間でいいので、「インシデント事例」の報告を受け、それに対する対策を立て、実行を確認することを習慣化する必要があります。
院長など管理者が意欲を持って、医院全体で、医療事故の防止を優先する姿勢を継続しないと成功しません。
インシデントリポートの記載項目はできるだけ少なく、簡単にし、また対策も抽象的な言葉でなく、できるだけ単純で具体的な言葉で記述し、それを院内の目立つ所に表示する必要があります。
一定期間後に実際にその対策が実行されているかどうか必ずチェックし、もし実行されていない場合、その対策マニュアルのどこに問題があるのか、あるいは院内の体制のどこに問題があったのか検証される必要があります。
○ 「誤嚥事故」の対策
過日、松本市歯科医師会学術部主催の勉強会にて、小笠原正先生(松本歯科大学障害者歯科学講座教授)によるお話を伺う機会がありました。
《誤嚥防止対策》
① 高齢者など危険なケースでは必ずラバーダム防湿を行なう。このときガーゼでのどを塞ぐやり方は、そのガーゼを飲み込むことがあるので避ける。ただしラバーダム防湿下では、患者さんの顔色の変化に気づきにくいために、窒息を見逃すことがあることに注意する必要があります。
② 高齢者の場合など、もし可能なら立位で診療する。
③ ラバーダム防湿ができない場合は、冠やインレーにループをつけフロスで口腔外へ固定してから試適を行なう。
インレーにループをつけてフロスを結びつけます。
④ 冠やインレーの試適時には、歯科衛生士や助手は傍らに必ずマギル鉗子を準備することを習慣化する。
マギル鉗子フロスの端は口腔外へ固定します。
⑤ 治療の前に患者さんに、試適する冠がお口の中に落ちるかもしれないが、飲み込まないように注意する。
⑥ 「もしのどの奥に落ちても、反射的に口を閉じないようにしてください。起き上がって水を飲もうとしたり、口を閉じたりしないでください。すぐに専用の器具でのどに落ちた冠を取り除きます。」
⑦ のどに冠を落したら、瞬時に上下歯列の間に交叉した指あるいは開口器を挿入し、開口状態を維持したまま、左横を向かせる。(バキュームで吸うため)
⑧ バキューム吸引しても冠が取り除けない場合、すぐに喉頭鏡で喉頭展開しマギル鉗子で除去する。
⑨ 肺に入ったと思われる場合でとりのぞけない場合、ただちにハイムリック法を試みるとともに救急車を呼び、救急蘇生法を行いながら救急外来へ搬送する。
実際には、3分間以内に救急車が来ることはありませんから、気管支を塞いでいる異物が取り除けなければ患者さんは不幸な転帰を辿ることになります。
30年間何事ともなく過ごしても、次の瞬間に医療事故は待ち構えているかもしれません。普段からの心構えと具体的な備えをいかに準備しておくかどうかが患者さんを守る分かれ道になります。
誤嚥した異物が胃に落ちた場合、普通はそのまま排出されるため、大事には至らないことが多いと思われます。しかし、実際には排出されるまでに一ヶ月以上かかる場合も報告されています。
また過去に大腸癌の手術などを受けて瘢痕がある場合や、憩室に冠やブリッジが嵌まり込んだ場合、出てこないことがあり、大腸スコープで除去できなければ開腹手術になってしまいます。
高齢者では反射が衰えているため、誤嚥を起しやすく、小児では気管の直径が鉛筆くらいしかないために、小さな異物でも窒息につながります。
これらのハイリスクな患者さんを治療するときは特に注意を要し、特に危険な患者さんに対しては、高次医療機関への紹介をためらわずに行なうべきだと考えます。
最近、認知機能や予備力の衰えた高齢者の訪問診療を行なう必要が増えていますが、訪問先では診察室の中とはまた異なる種類の医療事故のリスクが潜在していることに注意を払う必要があります。
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