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№128「腐食する世界Corroding The Dead World」大麻とエイズとテロリズム
slower than cancer 癌よりもゆっくりと
but faster than rust でも錆びるよりは速く
corroding memories 思い出は蝕まれる
and decaying trust 希望は失われ
future visions grow sour 夢は壊れ
life's flesh is devoured 人生の果肉は貪り喰われる
all love is forgotten 愛は色褪せ
and all faith is lost 信念は失われる
dead to the world ただ深く眠る
dead to the world ひたすら眠る
I have become dead to the world 私は死んだように眠り込む
(Recyclone / Corroding The Dead Worldより)
世代間のギャップを感じる場面は枚挙に暇がありませんが、先日、ある首都圏の大学生に聞いた話には驚愕しました。
私「最近の報道によると大学生の4%が大麻を吸った経験があるという話だが、本当にこれは日本の話なの?」
某大学生「そんなもんじゃないですよ。まわりに大麻を吸っている連中は山ほどいますよ。20%くらいは経験しているんじゃないのかな?」
過日、慶應や早稲田の学生が大麻吸引や栽培で逮捕されましたが、一時の好奇心から禁止薬物に手を出した報いは、計り知れないほど大きなものになるでしょう。
(大麻取締法によれば、無許可所持は最高刑が懲役5年の犯罪であり、営利目的の栽培は最高刑が懲役10年の犯罪です。大半の初犯は実刑を免れますが、即座に学籍は失われ、医師や弁護士などの国家試験の類はまず合格できなくなりますし、一生、その罪科は付いてまわります。)
ちなみに彼はいわゆる「6大学」の学生で、茶髪、イヤリングをした、いかにも現代風の風貌ですが、特別アンダーグラウンドな生活を送っているわけでもなく、まじめにゼミなどに出席しているようです。
親の世代から見ると、麻薬などというものは市民の日常生活とは相容れない魔界の産物であり、決して許されざる悪行として捉えるのが常識なのに、彼等若い世代の間では、新しいiPod nanoを購入するか、新規のSNS(Social Network Service、mixiやMy Spaceなど)に参加するくらいの軽い乗りで手を出してしまうらしい。
マリファナ礼賛思想は新しいものではなく古代から薬草として取り扱われていますが、ほとんどの国で非合法化されている中で、オランダでは他のヘロインなどの、より凶悪な麻薬への傾斜を避けるという名目で、政府公認の「コーヒーショップ」が運営されていることがよく知られています。
また著名な文化人のなかにも「大麻はタバコより害が少ない」とか「大麻には他のより強力な麻薬への誘導効果はない」という意見を表明する人たちがいます。
しかし、過去、大麻に寛容であった社会も大半はその社会的な有害性を看過できずに厳しく規制しています。特にシンガポールでは死刑になる可能性もあり、イスラム圏でも概ね厳しい刑罰が待っています。
阿片戦争を例に出すまでもなく、大麻に制圧された国では社会全体の労働意欲が削がれ、大麻に蝕まれた集団では高い労働生産性は望めなくなります。人々は目の前のつらい現実に真正面から立ち向かおうとする意欲を失い、ただ一時の安逸とはかない幻を求め、貴重な人生と財産と意欲を浪費してしまいます。
魔窟と呼ばれる阿片窟のなかでうつろな表情をして痩せ衰えた人々が、次第に荒廃して死に至る姿を絵画や写真で見たことのある人もいると思います。
たとえ大麻自体にそれほど有害な副作用がなかったとしても、常用者の増加が社会の安全性、創造性、活力及び安寧と秩序に与える破壊的効果には警戒すべきものがあります。
SAS(睡眠時無呼吸症)でさえ、スリーマイル島原発事故やチェルノブイリ原発事故、スペースシャトルチャレンジャー号の爆発事故などの原因になっていたのではと囁かれているのに、もしあなたの心臓にバイパスを設ける医師が手術の緊張を和らげるために、ジョイント(大麻タバコ)を吸っていたら、また、あなたの未来の子供や孫を生む母親が大麻の常用者であったなら、あるいは、あなたの顧問弁護士やファイナンシャルプランナーが大麻を手に入れるために裏社会の密売人と深い関係にあったなら、あるいは子供や孫自体がマリファナのジャンキーであったなら、あなたはそのような運命を黙って受け入れることができるでしょうか?
今、大麻が手軽なダウナー系ドラッグとして急速に浸透しつつある日本の若い世代に、私達親の世代が言わなければならないことは、決して都合のいい嘘やご機嫌をとる言葉であってはならず、社会の未来を守るために絶対駄目なものは駄目という厳しい宣告でなければなりません。
大麻の常用者が蒙る精神疾患のリスクだけでなく、共同社会の信頼と安全を根底から蝕む無責任な行為であるとの自覚を持たせる必要があります。
子供を育ててまず思い知らされることは、子供は親の良いところを学ぶことは難く、親の悪いところや弱いところは砂が水を吸い込むように簡単に吸収してしまうという事実です。
前途有望な若い世代が、一時の安逸のために簡単に麻薬に手を出す責任の一端は、前世代の経験や知識が通用しない情報化社会におけるモデリングの喪失、つまり我々上部世代の行いに原因があります。
とりわけ国を率いる立場にある為政者や官僚、有識者とされる人々の思想や行動の卑小さや胡散臭さに一因があることは間違いなく、けっして日教組にすべての責任があるとは思えません。
○ 一方、最近、エイズやHIVの蔓延に対する危機感が失われているのではないかと危惧しています。
(ここでHIVはエイズウイルスのことで、HIVに感染すると「HIV感染者」になり、次第に免疫力が弱くなり、数年後に様々の感染症に罹患したり、癌や肉腫が現れるなどの症状を示すとエイズ、つまり後天性免疫不全症候群になります。)
HIVの増殖を抑える一応の治療法が確立し、けっして死の病でなくなったとされますが、まだHIVそのものを完全に駆逐する治療法は発見されていません。
現在の標準的な治療法は多剤併用療法(HAARTはーと療法:highly active antiretroviral therapy)と呼ばれるもので、一日5錠から20錠の副作用のある薬を何回かに分けて、一生飲み続けなければなりません。もし服薬率が90%を下回ると治療効果が失われてしまうという大変厳しい条件が課せられます。
(核酸系逆転写酵素阻害剤、非核酸系逆転写酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤から一つないし二つずつ薬剤を選び、組み合わせて使われます。)
必要とされる医療費もけっして無視できるレベルではなく、一人の患者を生存させるために一億円以上の医療財源が必要になると言われ、このまま日本のエイズ患者数が増え続けると社会への負荷も無視できないものになっていきます。
最近は十代の感染例もめずらしくなく、11月29日の配信によれば、2007年に国内で新たに判明したHIV感染者は過去最多の1500人であり、累計感染者、患者数は15000人を越えています。
京大医学部の木原正博教授(社会疫学)によれば潜在感染者数は3万~4万人と推定され、「感染者は4~5年で倍増しており、潜在感染者も同じペースで増加する可能性がある」としています。(2008.11.29サンケイ新聞配信より)
日本におけるHIV感染の原因は、2006年までの累計で、
1. 同性間性的接触 3700人
2.異性間性的接触 2993人
3.汚染血液凝固因子製剤 1438人
4.注射薬物使用者 41人
5.母子感染 32人
6.その他(輸血や複数の感染経路) 167人
7.不明 1373人
ですが、現在、感染者の95%は男性で、同性間感染が42%、異性間感染が35%で20~30代が感染者の中心になっているそうです。
母子感染以外では、血液・精液・膣分泌液・母乳などの体液を交換しなければ感染しません。
特に、せき・くしゃみ 、つり革・手すり、 風呂・プール、 コップでの回し飲み、 握手、 蚊・ノミ・ダニ、 献血、 理髪店・美容院などでは感染しないと言われています。
ちなみに唾液中にもHIVはいますが、その量が少ないために、感染するためにはバケツ1杯以上の唾液に傷口が触れる必要があり、実際は血液さえ注意すれば歯科治療では感染しません。
(もちろん外科手術や抜歯には注意が必要になります。
同性愛者や薬物常用を疑われる患者さんなどのハイリスクなグループに歯周外科手術などを行なう場合には、必ず血液検査を行なう必要がありますが、長野県の歯科医院で「あなたは同性愛者ですか?」などと問診で尋ねている医院は2008年時点ではまずないものと想像します。)
エイズの完全な治療法がない以上、感染しないことが最大の治療法ですが、なぜエイズが猛威を振るっているかと言うと、それが性という人間の本能、つまりもっとも弱い部分を巧みに突いているからです。
愛は盲目と言いますが、不幸なことに、現代の「愛の形」は狩猟・採集文化における「愛」のもつ鷹揚さはすでに許されず、生き残るためにはどこかの1%に醒めた理性を残すことを要求される時代になっています。
次の世代に、この世界に生き残る条件として、エビデンスに基づく「新しい愛の作法」を教育することが求められています。
○ 2008年の日本を象徴する言葉の候補はいくつかあると思いますが、その選択肢の一つとして「テロ」が挙げられると思われます。
秋葉原連続殺傷事件、個室ビデオ店の放火事件、元厚生省事務次官夫妻殺傷事件などに代表される、被害者にとってはまったく殺される理由が思い当たらない理不尽な犯行、自爆的な凶行が繰り返される背景には何があるのでしょうか?
経済財政諮問会議の主導により、10年ほど前より「労働者派遣法」の緩和と適用拡大が行なわれた結果、企業にとっては使い捨てできるマンパワーの確保が容易となり、その結果、2008年現在、全労働者の三分の一が、就労の不安定な派遣労働者に分類されるようになっています。
これは長年、一億総中流と言われ、一度就職したら一生その会社に奉公するという従来の日本社会からの構造転換を加速させる意味を持ち、ある意味ですでに今まで日本という名前で語られていた国の実質は、すでにこの地球上になくなったことを意味しています。
社会からの疎外感を持った階層が増え、ジニ係数の拡大に象徴されるように、富と利権の集中が進み、一度、階層を滑り落ちたら孫子の代まで這い上がることが難しくなった国、自己責任の言葉で片付けられる徹底した弱肉強食社会、勝ち組と負け組、つまり市場原理主義の弊害がこの国が上古より語り継いできた本来の姿をゆがめているのではないでしょうか。
もちろん謂れなく殺傷された方々のご冥福を心より祈るばかりで、犯人を憎む気持ちは大抵の市民と同じですが、このような恐ろしい犯罪を、単に特異なキャラクターによる理解できない犯罪として処理するだけでは不毛であり、二度と同種の凶行が起らないようにするために、原因を客観的に分析し、その複合要因を解き明かし、科学的に有効な対策を立案・実行することが政治や行政、専門家及びマスコミの役割ではないかと感じています。
犯人に何らかの病理的な徴候はないか、既往歴や薬歴、食育歴、生育歴、教育歴、職歴、社会病理から評価した家族構造、妄想や偏執性はないか、人格障害の有無、犯行の合理的な動機の解明と背景、被害者に対する犯人のイメージ構築過程、教育や医療との関係、地域社会の共同体機能の評価、宗教、アイデンティティーの構成要素など多岐の分野の専門家による調査・研究を徹底的に行い、なんらかの意味のある教訓を引き出すことが犠牲者の方々の無念を本当に晴らすことになると思われます。
大麻とエイズとテロリズム、サブプライムローンと世界同時恐慌、アメリカの没落とBRICs(ブリックス=ブラジル(Brazil)、ロシア(Russia)、インド(India)、中国(China))の台頭、地球温暖化と新型インフルエンザ等々、21世紀の初頭は不安に満ちた船出となっているようです。
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