№136「ナイトデンチャーで防ぐ高齢者の窒息」

本文へジャンプ 8月6日 
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   №136「ナイトデンチャーで防ぐ高齢者の窒息」




 歯が1本も残っていない総義歯や3~4本の歯が残っているだけの大きな義歯、また連続して奥歯が失われている遊離端義歯の場合、通常、歯科医院では“就寝中は義歯を外して義歯洗浄剤の中に浸しておいてください。”というように指導します。

これは義歯により昼間傷ついた粘膜や歯を支える歯根膜を安静にしてダメージから回復させるためと、義歯をよく洗浄消毒することにより、義歯にカビ(真菌)が繁殖することを防止するためからです。(嚥下性肺炎の防止)

でも上下の接触する歯が失われている場合や少数残存歯の場合、特に奥歯の咬み合わせがない場合、従来どおり“就寝中に義歯を外す”指導を行った場合、患者さんの健康に重大な障害をもたらすことがあると考えています。

特に高齢者、寝酒の習慣、肥満、中枢性の筋肉の弛緩、小さな下顎骨が原因の上顎前突症、高度なイビキ症(上気道抵抗症候群)、睡眠時無呼吸症候群などの不利な条件がある場合は、義歯を外せば下顎が後退し、舌根が落ち込み、気道が狭くなり、気道抵抗が増し、呼吸がスムーズにできなくなる可能性があります。

また義歯を外したことによる下顎の位置のずれが頭蓋や頚椎を支える姿勢制御筋群を歪ませるために、そこから生ずる病的な筋神経系への刺激が様々の好ましくない症状を産む可能性があります。

義歯を外すことによる下顎の位置の後退がどの程度呼吸循環系に悪影響を与えるか明確なエビデンスはありませんが、高血圧症や睡眠障害、循環器障害などの関連した疾患が予想できます。

このような場合、「ナイトデンチャー(就寝用義歯)」を製作・装着することにより、睡眠中の下顎の後方への落ち込みを防ぎ、舌根部の咽喉への落ち込みを緩和することは臨床上大きな意味を持っていると考えています。

「ナイトデンチャー」の構造は歯のない部分には顎をつけ、歯の残っている部分は義歯が歯の上を完全に覆ってしまう構造をしています。

就寝中に顎の位置を正常に保つことが目的で、会話や接触を目的としていないので人工歯はついていません。

咬み合わせの面は顎関節症の治療に用いるスプリントと同じような形態をしていて1mmの範囲で自由に前後左右に滑走できるように調整します。

ナイトデンチャーを装着すると下顎は挙上され、また下顎を筋肉のバランスのとれた位置に保つことができます。

その結果、患者さんは睡眠中の呼吸が楽になり、深い良質な睡眠をとれるようになったり、いくつかのケースで循環器系への負担が減るために血圧が下がることを経験しています。

人生の三分の一を占める睡眠が良質で安全ならば、日中のパフォーマンスは保たれ、寿命を延ばす一助にもなります。

最近、大きな入れ歯を外して寝るようにしたら、なぜか体調が悪くなり、肩こりや頭痛がひどくなった感じがある方は一度、歯医者さんに相談してみたらいかがでしょうか?