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bP42 「MOC震災に祈る」
東日本の被災者の方々にとってPost 3/11worldはまったく異なった様相の世界に変貌してしまいました。
4月20日時点に於いて、東日本大震災により、岩手3人、宮城4人、福島1人、避難所で1名の少なくとも9人の歯科医師が犠牲になり、さらに岩手、宮城で4人の歯科医師が行方不明になっていると報道されています。
3月28日の時点で、少なくとも2名の歯科衛生士が犠牲になったことが判明しており、歯科助手や歯科技工士の被災状況は4月末の時点で関係諸機関も把握できていません。歯科診療所の全壊・全焼・流失は、分かっているだけでも20施設以上にのぼり、いまだに行方の分からない方々が多数いらっしゃる現状では、コデンタルスタッフや患者さんを含めた歯科診療所の人的な損失はさらに増えるものと思われます。震災の勃発が午後2時46分であったことから、診療中に歯科医院ごと壊滅した医療機関もあったものと推定されています。
警察庁によると、4月13日午後3時現在、死者は余震を含め12都道県で1万3357人、行方不明者は6県で1万5148人。死者と行方不明者は計2万8505。負傷者は4896人、全壊建物は9都県で5万9806戸とされ、現代文明を享受しているはずの日本が、有史に残る未曾有の大災害に遭遇してしまった悲劇に、あたらためて心底より哀悼の意を表し、犠牲者のご冥福を祈念致します。
今回の地震は869年(貞観11年)に東北地方を襲い、1000人以上の死者を出した貞観地震の再来だとされていますが、実際には貞観地震を凌駕する規模の地震と津波であったことが判明しています。
1100年前の災害と異なることは、その規模の大きさだけでなく、今回が震災と大津波に加えて「想定外の」制御困難な原発被害が複合している点です。
4月18日に保安院は1〜3号機の核燃料ペレットが溶融していることを認めましたが、これが格納容器の底に溜まった状態が炉心溶融(メルトダウン)と呼ばれています。原発災害としてはチャイナシンドロームの前段階に移行していることになり、チェルノブイリとの違いは格納容器の爆発を起こしていない点です。もしメルトダウンした超高温の核物質が、多数の配管が通過し構造上脆弱な軽水炉格納容器の底を破って、地下水と触れれば壊滅的な水蒸気爆発で原発が根こそぎ吹き飛び、沖縄・八重山諸島以外の国土が50歳以下の人間は立ち入ることができない無人の荒野に変わり果てます。
今回の震災を日本人の「我欲」が招いたものであり、国民全体が反省するべきだと評した首長がいましたが、もし罪があるとすれば、原子力安全委員会や保安院の「想定」の甘さに咎があっただけで、岩手、宮城、福島等の県民に責任があったわけではないことは言うまでもありません。
いまだに収束する予感さえない原発災害に苦しむ方々と、危険な現場に踏みとどまり、炉心を冷却するために奮闘されている人々の報道に接すると、原発推進により低炭素化社会を実現しようとする我が国のエネルギー政策(原子力長期計画)には根本的な誤りがあったのではと考えたくなります。
ただ2020年時点での日本の温室効果ガスの削減目標を「1990年比25%減」と明言した鳩山元首相の国際公約は、今さら撤回できるものではなく、この約束を一方的に反故にすることは世界が許さないでしょう。
究極の次世代エネルギーと言われている核融合発電は、日本、EU、アメリカ、中国、韓国、ロシア、インドの七つの国や機関が参加する国際熱核融合実験炉(ITER)計画が、2016年を目標に進められていますが、はたして現行のトカマク方式のままで実証炉、実用炉と順調に開発が進むかどうか不明な状態です。
クリーンエネルギーとして期待されている太陽光発電、風力発電、地熱発電、バイオマス発電などは現代社会の電力需要を賄うには力不足であり、社会活動のアクティビティーを1990年代並みに低下させなければ、安定した電力需給を確立することは困難です。
どこまでエネルギー消費の効率化を図り、エネルギー供給の多様化を図ることができるかが公約の達成の成否を握りますが、頁岩(シェール)ガスやメタンハイドレート(Methane hydrate)の利用などとともに最近注目を浴びているのが「トリウム溶融塩炉(Thorium Molten Salt Nuclear Reactor)」です。
現行の固形燃料ウラン原子炉、つまり中性子を当てて3%濃縮ウラン235を分裂させる低濃縮ウラン型原子炉とプルトニウム・ウランの混合燃料MOXを用いるプルサーマル発電や高速増殖炉、六ヶ所村の再処理工場で構築されている日本のエネルギーサイクルは再検討すべき時期が来ているものと思います。
ウラン原子炉では中性子を吸収したウラン238がプルトニウム239など5種類のプルトニウム同位体に変わりますが、このプルトニウムはダイオキシンと並び人類史上最悪の毒物とされ、体内に取り込まれた場合の生物学的な半減期は骨で50年、肝臓で20年であり、吸入した場合、肺に付着し肝臓や骨の表面に移行してアルファ線などを放出して近接臓器の遺伝子を破壊します。
一方、トリウム溶融塩炉からはこの危険なプルトニウムの生成がありません。有害廃棄物がウラン原子炉の1000分の一以下であり、水素爆発やメルトダウンなどの悲惨なカタストロフィーが原理的に起こることがなく、冷却システムや緊急炉心冷却装置(ECCS)も必要としません。特に溶融塩内に核分裂育成物を含まない新型高温原子炉AHTRが検討されています。
現在、トリウム溶融塩炉の開発を積極的に進めているのはチェコと中国ですが、その基盤技術は1960年代にオークリッジ国立研究所で実験炉として実証されています。古川和夫博士(トリウム原子力研究の第一人者)によれば、本格的に開発に取り組めば、比較的少ない資金と開発期間で商業運用が可能だそうです。
アメリカやロシアが「トリウム溶融塩炉」を採用しなかった理由は、現在はまだ、原発並みの出力を得るのが困難なこともありますが、核兵器製造に必要なウランやプルトニウムを使わず、ほとんど生成しないため、核兵器製造サイクルに組み込むことができないためとされています。
商業的な核融合発電が実現するまでの端境期を担う、原発に替わるオルタナティブなエネルギー供給体制を構築することが、知恵の実を食べたためにエデンの園を追放され、豊かな消費社会にすっかり慣れ親しんでいる先進国の責務になっています。
しかし考えてみれば、人間の貧弱な理性で管理できる範疇を超えた、原発という「ダモクレスの剣」に頼らなければ機能しない社会にそもそもの業(カルマ)があるわけで、すでに人類は思ったよりも早く終焉の淵に佇んでいるだけのことかもしれません。
テレビなどに次々と登場する権威ある「専門家」が、どれほど当てにならないものか、危機に際して超人的な働きをする人々はトップではなく、現場にいる人たちであることを実感された方は多いと思います。
冒頭、東日本震災犠牲者への黙祷で開始された今年のMOCお花見会は、三城の「ふじさわ山荘(31-2123)」で被災者を悼み、静かにつつましく行われました。生憎土曜日は激しい雨でしたが、翌日は完璧な青空で、朝飯前に登った美ヶ原高原はいつものように晴れやかに出迎えてくれ、遠望する北アルプスは朝日に染め抜かれ、桜色に神々しく輝いていました。
花よりは命をぞなお惜しむべき待ちつくべしと思ひやはせし 西行法師
山里の春の夕暮きてみれば入相の鐘に花ぞ散りける 能因法師
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