2011年8月21日更新
                    
                    ■ 咬合性外傷に対する処置 ■
   「特定非営利活動法人 日本歯周病学会編 歯周病の診断と治療の指針2007」21頁より転載
 

 〇 歯周病外傷の臨床及びX線所見 

 臨床所見としては以下のうち、ひとつまたは複数が含まれる。

 
 1)歯の動揺の増加
 
 2)早期接触

 3)著しい咬耗

 4)深い歯周ポケットの形成

 5)歯の病的移動

 6)象牙質知覚過敏

 7)歯の破折

 ○ X線写真の所見

 1)歯根膜腔の拡大
 
 2)歯槽硬線の変化(肥厚、消失)

 3)骨の喪失(根分岐部、垂直性、全周性)

 4)歯根吸収
 
 5)セメント質の肥厚

 ○ 咬合性外傷に対する処置

 外傷性咬合や咬頭干渉を除去し、安定した咬合を確立させ、咬合性外傷によって増悪した歯周組織の破壊を軽減することで、
歯周病編を改善し、歯周炎により低下した歯周組織の機能を回復することを目的とする。

 1) 咬合調性と歯冠形態修正

  咬合調整とは、外傷性咬合を是正することにより、咬合時の歯周組織に加わる咬合力を取り除くことである。歯を選択的に削合することにより、咬合力を多数歯に分散させ、歯軸方向へ力が伝わるようにすることで、より正しい歯の接触関係を保ち、歯周組織の安定を図る治療法であるが、歯の動揺などの症状がみられない場合は、早期接触歯をすべて調整する必要はない。

 咬合調性の目的は、深部歯周組織に生じた外傷性咬合の改善を第一としているが、さらに顎関節症やブラキシズムの改善、歯冠修復後や矯正治療後の咬合の安定化、食片圧入の改善、歯科矯正治療を障害する早期接触の除去も含まれる。
 

 
⇒片側臼歯部の咬合を低くした場合、同側に強い噛みしめが起きて、同側の咀嚼筋群の筋緊張及び筋性痛を惹起することがあるので注意すべきである。また削るばかりが咬合調整ではない。何らかの保存修復的処置で早期接触歯以外の咬合を均等に確保しても、結果として咬合性外傷を除去できることにも注目すべきである。たとえば過蓋咬合における下顎前歯の突き上げを受けている上顎前歯をただ削合してもまったく無意味で有害である。この場合、補綴的手段または矯正的手段で臼歯部咬合を挙上することを第一選択肢にするべきだと考える。

 歯冠形態修正とは、外傷性咬合による破壊的咬合力の除去および分散、咀嚼機能や審美性の回復、咬頭ならびに隆線の形態を修正する目的で歯冠の形態修正を行うことである。

これは早期接触が存在しなくても行うが、咬頭嵌合位の接触部は必ず保存し、側方圧のかかる部分や広い面接触の部分を削合して、咬合力を軽減する。

 
⇒天然歯列において生理的咬耗などにより機能咬頭の摩耗が生じ、モンソンカーブの凸面が上方に突き出た状態,
つまりアンチモンソンカーブの場合(リバースウィルソン湾曲)、歯冠形態修正はあらかじめ模型上で作製したプロビジョナルを利用して機能咬頭の摩耗分を挙上し、それを削り込んで上下の機能咬頭を回復した歯冠形態に置き換えていく手法をとります。つまり顎位とガイドを精密にトランスファーした模型上で挙上量を設定し、頭蓋底に平行な面を設定し、ブループリントをつくり理想的な咬頭接触関係を持つプロビジョナルレストレーションを作製してから、口腔内で調整することになります。歯科医師、技工士両者にとって難易度の高い咬合補綴治療になります。

 2) 暫間固定

 暫間固定は咬合性外傷を咬合調整のみでは改善できない場合、歯の動揺が強くみられる場合、歯周組織が破壊されて二次性咬合性外傷を生じやすい場合に行う。

暫間固定の時期、期間、方法を決めるには、歯周組織の破壊の程度や広がり、歯列弓上での動揺歯の位置関係などを考慮する必要がある。

 ▼暫間固定の注意事項 

 @ 咬合調整を暫間固定前後に充分に行う。

 A 暫間固定装置が口腔清掃を阻害しないようにする。

 B 定期的な観察や管理が必要で、とくにプラークコントロール、早期接触の有無、さらに固定装置の破損などのチェックを行う。

 C 十分な歯周組織の安定が得られた場合には暫間固定を除去し、その状態によって永久固定への移行を選択する。

 3) プロビジョナルレストレーション

 不適合修復・補綴物を除去して、代わりにプロビジョナルレストレーションを装着することで歯周組織の安定をはかる。また残存歯数の減少により二次性咬合性外傷を引き起こしている場合、歯周基本治療中にプロビジョナルレストレーションを装着し、咀嚼・咬合の回復によって、歯周組織の安定をはかる必要がある。とくに治療が長期間に及ぶと予測される患者については歯周治療を進めるうえで、プロビジョナルレストレーションは重要であり、少なくとも歯周外科治療を行う前にはプロビジョナルレストレーションの装着が行われている必要がある。

 
⇒大規模な補綴になるほど、また咬合の崩壊や歯の病的な移動が進んでいるほど、精度が高く耐久性のあるプロビジョナルレストレーションを装着する必要があります。審美性を追求するプロビジョナルレストレーションの修正により、より高度な患者さんのニーズに応えることができます。しかし現行の保険制度ではプロビジョナルレストレーションの給付条件は厳しく、その材質や算定要件は長期間の複雑な症例には不十分です。特に咬合性外傷のあるケースでは金属製のプロビジョナルレストレーションが必要な場合が多く、治療自体が保険外治療になる場合があります。保険診療でどんなに困難な症例も完璧な対応ができるかと言われれば実際は不可能な場合があることを政府も保険者も国民に説明すべきだと思います。例えば重度の金属アレルギーを有する患者さんの補綴治療などは、最初から保険診療の給付範囲に考慮されていません。

 4) ブラキシズムの治療

ブラキシズムとは、咀嚼筋が異常に緊張し、咀嚼・嚥下および発音などの機能的な運動と関係なく、非機能時に上下の歯を無意識にこすり合わせたり(グライディング)、くいしばったり(クレンチング)、連続的にカチカチと咬み合わせる(タッピング)習癖である。すなわち上下の歯の間に食べ物がない状態で行われ、強い咬合力、特に側方力が歯に加わるために、歯周組織に咬合性外傷を引き起こす危険性がある。歯周病に、ブラキシズムによる咬合性外傷が合併すると病変が急速に進行し短期間に重度の歯周炎へと発展しやすい。

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 ブラキシズムの原因は解明されてきた面もありますが、まだよく分っていないと言うべきではないかと思います。咬み合わせやストレス、睡眠障害などの原因が疑われていますが、同じ咬み合わせの障害があり、同程度の心身のストレスがあっても、必ず同じようなブラキシズムがおこるわけではなく、そこには大脳生理学のもっと奥深い理解と知見獲得が必要です。暗示療法が奏功したと思われる場合もありますが、本当にブラキシズムが解消したのかどうかは分かりません。臨床歯科としては一般的に行われてきたスプリント療法、咬合調整、ガイドの付与、自己暗示療法、ストレスコントロール、睡眠障害の改善、バイオフィードバック療法(グラインドケア)等を組み合わせて試行錯誤的に対応しているのが現状です。

 5) 歯周ー矯正治療

 矯正を行う時期は、歯肉の炎症が改善さ歯周組織の安定が得られていることが必須であり、基本的には歯周ポケットの除去が行われた後が望ましい。歯列不正がプラーク蓄積の原因だからと言って、炎症のコントロールが不十分な早期に矯正治療を行うと、外傷的に作用し歯周組織の破壊を促進することもある。また、矯正治療後の咬合調整は必須であり、最終的なバランスのとれた咬合状態を獲得することと、その後の経過観察が重要となる。