2011年8月30日更新 |
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⇒2)糖尿病性慢性合併症 糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 「特定非営利活動法人 日本歯周病学会編 糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン」より転載・改変 2000年における糖尿病患者&(平成14年度糖尿病実態調査)
糖尿病に対する基礎知識 1.分類と診断 1)糖尿病とは 糖尿病とは、インスリン作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝性疾患である。 インスリン作用不足はインスリン供給不足とインスリン抵抗性の増大により起こり、その発症には遺伝因子と環境因子がともに関与している。 発症の引き金となる環境因子は、1型糖尿病では、ウイルス感染、食餌性の因子、化学物質、2型糖尿病では、過食、運動不足、その結果としての肥満である。 インスリン不足により、糖代謝のみならず、蛋白質代謝や脂質代謝も障害される。持続する中程度以上の高血糖により、糖尿病の特徴的な症状である、口渇、多飲、多尿、体重減少、易疲労が出現する。急激かつ著しいインスリン作用不足により、ケトアシドーシスや糖尿病昏睡をきたす場合もある。 しかし、一般的には無症状か症状があっても軽度なので、患者は病識をもたないことが多い。 しかし著しい代謝異常がなくても、慢性的な高血糖の持続によって糖尿病に特有な細小血管症と大血管症が発症・進展する。 とくに大血管症は、高血圧、肥満、脂質代謝異常の合併により、そのリスクはさらに高まる。 2)糖尿病の分類 1型糖尿病:自己免疫性あるいは特発性に生じた膵臓のランゲルハンス島β細胞の破壊による絶対的インスリン量の不足を原因とする。小児や若年層における発症が多いが、中高年層でも認められ、全糖尿病患者における割合は5%以下である。 2型糖尿病:インスリン分泌低下やインスリン抵抗性、またはそのその両者を発症基盤とした相対的なインスリン作用不足を遠因とするものであり、全糖尿病患者の90%を占める。現在、わが国で激増している生活習慣病としての糖尿病は2型糖尿病であり、もともとインスリン分泌能が低いという日本人特有の遺伝的背景に加えて、過食(特に高脂肪食)や運動不足による肥満に伴うインスリン抵抗性が原因となって高血糖をきたす。 ・病期(病態)からの分類 糖尿病はその病型にかかわらず、それぞれ膵β細胞の疲弊の程度とインスリンの標的臓器(肝臓、筋肉、脂肪組織)におけるインスリン抵抗性の程度によって、インスリンへの依存度が異なる。 インスリンが絶対的に不足し、生命の維持のためにインスリン治療が不可欠な場合はインスリン依存状態であり、古典的な1型糖尿病がこれに該当する。 食餌療法、運動療法、経口薬で血糖が良好に管理される場合はインスリン非依存状態である。 しかし、2型糖尿病であっても、清涼飲料水の多飲などによりケトアシドーシスに陥り、救命のためにインスリン治療が必須になる場合もある。 目の前の患者さんのインスリン治療への依存度は、いずれの病型でも0から100%までの間にある。したがって臨床上、糖尿病は成因と病態の両面から捉える必要がある。 ・糖尿病における成因(発症機序)と病態(病期)の概念 日本糖尿病学会編 糖尿病治療ガイド2008~2009より転載 3)糖尿病の診断 糖尿病診断の要点は、糖尿病の典型的な症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)の有無、HbA1c値、糖尿病網膜症、過去の「糖尿病型」の有無、である。また血糖値が「糖尿病型」(①早朝空腹時血糖≧126㎎/dl、 ②75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値≫200㎎/dl、 ③随時血糖値≫200㎎/dl)かどうかの判定が必要になる。 例えば、あるときに測定した血糖値が「糖尿病型」で、かつ、1)糖尿病の典型的症状あり、 2)HbA1c≧6.5%、 3)確実な糖尿病網膜症の存在 のいずれか1項目を満たせば「糖尿病」と診断できる。 あるいは血液検査を2回行うことでも診断できる。ある日に検査した血糖値が「糖尿病」であった場合に、もう一度別の機会に血糖検査を行い、2回目も「糖尿病」であれば「糖尿病」と診断する。この場合、2回目は1回目と異なる検査が望ましい。 一方、「正常型」の判定には、①早朝空腹時血糖<110㎎/dl、および ②75gOGTT<140㎎/dl、のいずれも満たさなければならない。 また、「正常型」「糖尿病型」いずれのも属さない場合は「境界型」と判定する。 2)耐糖能異常(Impaired Glucose Tolerance;IGT、75gOGTT2時間値140~199㎎/dl) 75gOGTTの施行は、「正常型」「糖尿病型」の判定には必須であるが、さらに高血糖となり有害である。 ○75gOGTTによる判定区分と診断基準
静脈血糖値、㎎/dL( )内はmmol/L 随時血糖値≧200㎎/dLの場合も糖尿病型とみなす。 正常型であっても、1時間値が180㎎/dL以上の場合は、180㎎/dL未満のものに比べて糖尿病に悪化する危険が高いので、境界型に準じた取扱い(経過観察)などが必要である。 (日本糖尿病学会:糖尿病診断基準委員会報告 1999) 2.治療の目標とコントロールの指標 糖尿病治療の目標は、血糖・体重・血圧・血清脂質を良好にコントロールすることにより、糖尿病合併症の発症と進展を阻止し、健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)を維持し、健康な人と変わらない寿命をまっとうすることである。 ○血糖コントロールの指標と評価
HbA1c:グリコヘモグロビン(%)、 FPG:早朝空腹時血糖値(㎎/dL)、 2h-PG:食後2時間血糖値(㎎/dL) 血糖コントロールの指標とその値をどのように評価するかは、エビデンスに基づいて定められている。 HbA1c値(過去1~2カ月の平均血糖値を反映)、空腹時血糖値、食後2時間血糖値の3つの血糖コントロール指標はいずれも 「優」「良」「不十分」「不良」「不可」の4段階に分けられているが、必ずしも同じレベルの血糖コントロールを示すものではない。 一方、2007年、国際糖尿病連合(International Diabetes Federation;IDF)は血糖コントロールの目標値を、HbA1c6.5%未満、空腹時血糖値100㎎/dL、食後2時間血糖値を140㎎/dL未満とすることを推奨した。健常者の血糖値が70~140㎎/dLという狭い範囲を変動しているということから、」低血糖を回避したうえで、より厳格な血糖コノトロールを求めたのである。 以上の3つの代表的な血糖コントロール指標のほかに、過去約2週間の平均血糖値を反映する、グリコルブミン(GA:基準値11~16%)、尿糖の排出量と相関して低下する1.5アンヒドログリシトール(1.5-AG:基準値14.0μg/mL以上)が、臨床上用いられる。 治療の目標に向かって、まず、生活習慣の改善について患者教育を充分に行う。指導開始2~4か月経過しても、「優」または「良」の血糖コントロールが得られない場合、経口血糖降下薬が開始される。ただし、インスリンの絶対適応に対しては経口血糖降下薬による[治療は行ってはならない。一定のエビデンスがあることから、最小血管症抑制の観点からはスルホニル尿素剤とピギアナイド薬、大血管症抑制の観点からはαグルコシダーゼ阻害薬およびチアゾリジン薬、または肥満糖尿病患者におけるビグアナイド薬が推奨された。よい血糖コントロールが得られるのであらば、どの薬も第一選択薬となりうるので、患者の病態、合併症、薬剤の作用特性などを考慮して個別に対応することがもっとも重要である。 ⇒2011年現在、新規の糖尿病治療薬として、インスリン分泌を促すホルモンであるインクレチンを利用した新しい糖尿病治療薬が市場に提供されている。intestine secretion insulin(腸から分泌されるインスリン)が略されてインクレチンと呼ばれるようになった。。1921年にインスリンが発見された後、腸から集められた物質にも血糖を下げる作用があることが報告され、intestine secretion insulinと呼ばれたことに始まる。 2011年現在、GLP-1アナログ(DPP-IVの作用で分解されにくいGLP-1類似物質)とインクレチンを分解する酵素を阻害するDPP-IV阻害剤が市販されています。 3.歯科治療上、理解しておくべき糖尿病の症状と合併症 1)糖尿病性急性合併症 高度のインスリン作用不足は、急性の代謝失調を起こす。代表的なものは、糖尿病ケトアシドーシスとケトン体の産生が少ない高浸透圧高血糖症候群である。 いずれも脱水と高血糖により重症例では昏睡をきたす。両者を合わせて糖尿病性昏睡と総称される。脱水と高血糖が主症状であり、初期治療の基本は、脱水の補正と電解質の補充、そしてインスリンの適切な投与である。できるだけ速やかに専門にのいる医療機関に搬送する。 ○低血糖 低血糖は糖尿病治療中に見られる頻度の高い緊急事態である。 インスリンや経口血糖降下薬で治療中の糖尿病患者に起こりうる。 血糖値が正常値を越えて急激に低下した際には、交感神経刺激症状として、発汗、不安、振戦、動悸、種子の震えなどが認められる。 血糖値が50㎎/dL以下に低下した際には、中枢神経症状として、頭痛、眼のかすみ、生あくび、めまい、空腹感、倦怠感、発汗、振戦、意識レベルの低下、異常行動、痙攣などが出現し、ブドウ糖が投与されない場合には、昏睡に陥る。 糖尿病患者は感染症にかかりやすいので、肺結核、尿路感染症、皮膚の感染症に留意する。
○高血糖性昏睡
⇒2)糖尿病性慢性合併症 |