@網膜症 |
網膜症の初期には毛細血管瘤、点状出血、網膜浮腫などを認める。
進行すると、黄斑症、網膜前や硝子体内の新生血管の発生、さらに硝子体出血や網膜剥離を起こして視力障害へと至る。
網膜症の発症・進展の危険因子は、糖尿病の罹病期間、HbA1c高値、初診時に重症の網膜症あり、高血圧の合併、妊娠中である。
糖尿病診断時には必ず眼科を受診させ、網膜症の有無を評価する。以降も少なくとも年1回の定期受診が好ましい。増殖前網膜症までは1回/3〜6カ月、それ以降は1回/1〜2カ月を目安とする。糖尿病網膜症の早期では、厳格血糖管理を中心とした内科的管理が有効であるが、進行した場合は眼科的処置が必須である。
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A腎症 |
糖尿病腎症は、原則として検尿によって臨床的に診断する。無症状のまま、緩徐に進行し、ある一定の時期をすぎると、尿中アルブミン排泄量の増加、持続性蛋白尿から慢性腎不全という道をたどる。早期診断のためには尿中微量アルブミン量を測定する。
病期分類 第1期(腎症前期):尿中微量アルブミン陰性
第2期(早期腎症):微量アルブミン陽性。糸球体濾過率やクレアチニンクリアランスは正常か軽度に上昇する。
第3期(顕性腎症): 尿検査試験紙で持続性の蛋白尿陽性。腎機能がほぼ正常な場合は第3期A、クレアチニンクリアランス60mL/min以下または尿蛋白1g/日以上の場合は、第3期Bとする。
第4期(腎不全期):腎機能の著明な低下。血清クレアチニン上昇。
第5期(透析療法期):慢性腎不全により透析療法(血液透析または連続携帯型腹膜還CAPD)が導入される時期。
糖尿病腎症の主たる原因は慢性的な高血糖であり、腎症治療の基本は血糖コントロールである。特に顕性腎症期(第3期A)までは、食餌療法ならびに薬物療法による厳格な血糖コントロールが大切で、HbA1c値6.5%未満を目標にする。また血圧管理が血糖コントロールと同様に大切で、目標血圧は130/80mmHg未満、尿蛋白が1g/日以上の場合は125/75mmHg
未満である。降圧薬は、腎保護作用をもつアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB)、降圧効果にすぐれた長時間カルシウム拮抗薬が第一選択薬として推奨されている。
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B神経障害 |
糖尿病神経障害は、代謝障害因子と血管障害因子が関与して起こる。高血糖の持続はシュワン細胞の脱落や増殖抑制、そして神経線維の軸索の変性を起こす。
さらに、循環障害による低酸素・虚血が神経障害に影響する。最近は酸化ストレスの亢進が重要視されている。主として知覚神経と自律神経が障害され、左右対称性びまん性神経障害(多発性神経障害、自律神経障害)と単一神経障害(脳神経障害、体幹・四肢の神経障害など)に分類される。
神経障害の危険因子は、糖尿病の罹病期間、HbA1c高値、高血圧、喫煙、アルコール飲酒などである。
一般的にみられる症状は多発性神経障害で、四肢(とくに下肢)に両側性に出現する異常感覚(しびれ感、じんじん、ぴりぴり感、灼熱感)やとくに夜間に増悪する四肢末端の自発痛(穿刺痛や電撃痛)が特徴的である。
自律神経障害には、無自覚性低血糖、起立性低血圧、無痛性通性(非定型的)心筋虚血、胃無力症、便通異常、無力性ぼうこう、勃起障害(ED)などがある。いずれも患者の苦痛は大きくQOLを損なう。進展した患者では突然死の原因となる。
対策としては、禁煙、禁酒などの生活習慣の改善とともに、厳格血糖コントロールである。ただし、長期間高血糖が持続していた場合に急激に血糖を下げると、神経障害が悪化することがあるので注意を要する。
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