2012年1月22日更新
     152「幹細胞を利用した骨造成法」 



 

2006年に、京都大学のIPS細胞研究所所長の山中伸弥教授が人工多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cells)をマウスの皮膚の細胞から作りだしました。

 

それ以来、倫理的問題をボトルネックに抱えているヒトES細胞(胚性幹細胞embryonic stem)の替りに再生医療の担い手になるのではという期待のもとに、IPS細胞の様々の応用が研究されています。

 

抜歯や歯周病などで歯を失うとそれに伴い歯槽骨の吸収も進みます。従来、歯科に於いては、歯槽骨の再生医療として、自家骨移植、自家骨+他家骨移植、自家骨+人工骨材移植、他家骨移植、スプリット・クレスト(split crestAlveolar Ridge Expansion)、ディストラクション(Vertical Alveolar Ridge Distraction歯槽骨延長法)などが行われてきました。

 

しかし、残念なことに歯科医療では、IPS細胞を利用した臓器の再生はまだ実験段階だと言えるでしょう。

 

組織再生には以下の3つの必要条件を満たすことが必要とされています。

 

1.再生の足場(バイオスキャフォールドbio scaffold

2.骨芽細胞と骨芽細胞への分化能を持つ幹細胞

3.サイトカイン(骨成長因子、線維芽細胞成長因子など)

 

これらの条件を満たす治療法として、自家骨移植やスプリックレスト、ディストラクションでの良好な再生が期待されます。しかしどれも成功するかどうかは術者の技量に依存しており、特に自家骨の場合は十分な量の自家骨を採取することが難しく、また骨採取部位の痛みや機能障害は患者さんにとってできれば避けたい負担になります。

 

最近、研究されている歯槽骨再生の新しい試みとして、「TE-boneTM」というシステムが発表されています。(参考文献:Kagami H., Agata H, Tojo A. Bone marrow stromal cells (bone marrow-derived multipotent mesenchymal stromal cells) for alveolar bone tissue engineering: basic science to clinical translation. Int J. Biochem. Cell Biol. In press

 

これは患者さんの脊椎から骨髄液を採取し、クリーンルームで骨形成細胞を培養・増殖させ、これに人工骨を加えて移植するシステムです。骨髄穿刺は30分程で済み、自家骨の採取に比べれば大きな苦痛はなく、患者さんの負担も最小で済みます。

 

TE-boneTM」ではクリーンルームを備えた中核病院で細胞の採取、細胞培養、移植を行い、その後のインプラント治療を各歯科医院で行うことになっています。

 

TE-BONE は、東京大学での臨床研究で安全性と有効性が確認された治療法で、以下のような特徴が有ります。

@従来の治療に比べ、治療期間が短縮される。

A従来の骨移植と比較して身体的負担が少ない。

B患者様ご自身の 細胞と血清を使用する為、アレルギーや移植材料に

よる感染の心配が無い。

C上顎だけでなく下顎でも患者自身の骨が再生する。

 

この技術が実用化されれば、無理に狭い顎堤にインプラントを埋入する必要はなく、十分な幅と厚みを持つ歯槽骨内でインプラント設計を行えるため、手術の適応症の拡大、安全性の向上、術者・患者さん負担の軽減、審美性の向上などが期待できます。

近未来のインプラント補綴は細胞培養がゴールデンスタンダードになるかもしれません。

 

(「TE-boneTM」は株式会社TESホールディングス 再生医療事業部によりサポートされています。)