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159「新しい歯周病治療ガイドライン「歯周病治療の指針2015」」
この度、特定非営利活動法人 日本歯周病学会から「歯周治療の指針2015」と「歯周病と全身の健康」が編纂され、日本歯周病学会の全会員に配布されました。関係各位のご努力と熱意に感謝いたします。
数日前に入手したばかりで、まだ全体を読んでいませんが、一読したところ、いくつかの点で、臨床医の歯周病治療を変えるかもしれない変更点があることが分かります。
気がついた点をいくつか列挙してみたいと思います。
T 歯周病の重症度分類の変更:「歯周病の診断と治療の指針2007」及び「歯周病の検査・診断・治療計画の指針2008」では、歯周病の重症度は、軽度歯周炎がPD(probing
pocket depth)3o以下またはBL( bone lebel)30%未満、中等度歯周炎がPD4〜6oまたはBL30〜50%、重度歯周炎がPD7o以上またはBL51%以上でしたが、この診断基準が変更されました。
新しい重症度分類は、1歯単位の診断として、
a.組織破壊の程度による歯周炎の分類
・歯槽骨吸収度(Bone Lebel:BL)あるいはアタッチメントロス(Atachment Loss:ALoss)が歯根の長さの1/3以下(約30%未満)で根分岐部病変が無い物が軽度歯周炎。
歯槽骨吸収度あるいはアタッチメントロスが歯根の長さの1/3〜1/2以下(約30〜50%)または根分岐部病変があるものが中等度歯周炎です。
歯槽骨吸収度あるいはアタッチメントロスが歯根の長さの1/2以上(約51%以上)または根分岐部病変が2度以上のものが重度歯周炎です。
b. 炎症の程度による歯周炎の分類
・歯周ポケットの深さが4o未満は軽度歯周炎。
・歯周ポケットの深さが4〜6oは中等度歯周炎。
・歯周ポケットの深さが6o以上は重度歯周炎。
☆ 今まで重度歯周炎は歯周ポケットが7o以上と定義されていましたが、今回の改定で6o以上に変更されました。この臨床的な意味は大きく、たった1oの違いですが、臨床的な実感としては重度歯周炎の割合が3割程度は増えるのではないでしょうか?
U 個人レベルの診断についてですが、広汎型・限局型の定義が明確化されました。
「歯周治療の指針2015」P27より
(2)個人レベルの診断
a. 病型診断
・プラーク性歯肉炎罹患歯と歯周炎罹患歯が混在する場合は、歯周炎を病名とする。
・全身疾患、家族内発症および喫煙、ストレスなどの有無を確認し、歯周病への影響の有無を推定する。
・年齢に比べ、歯周組織の破壊速度が緩慢である場合を慢性歯周炎患者、年齢に比較して歯周組織の破壊が急速である場合を侵襲性歯周炎患者とする。
b. 歯周炎の進行度
・軽度、中等度、重度が混在する場合は、最も重症な歯を基準として病名を記載する。「全体的に中等度、部分的に重度」のように記載する場合もある。
・慢性歯周炎では1歯単位の診断で、中等度と重度歯周炎の罹患歯数が全部位の30%以下であれば限局型、30%を越えれば広汎型に分類する。
・侵襲性歯周炎においても、罹患部位が全部胃の30%以上であれば限局型、30%を越えれば広汎型として分類する。一方、AAPのConsensus
Reportでは、第一大臼歯または切歯の2歯以上にアタッチメントロスがあれば広汎型に分類することが示されており、両者を勘案して分類することが必要である。
c.口腔全体の歯周炎の重症度
・患者個人レベルで歯周炎の重症度を診断する場合は、1口腔単位での診断となるため、1歯単位の進行度と罹患歯数の両方をもって推定する。
V 在宅医療、周術期患者と歯周治療 の項目が新設されました。
私が歯科医師国家試験を受験した何十年も前には、まったく在宅歯科医療と周術期歯科医療については、カリキュラムの中にさえありませんでした。
W インプラント周囲炎の治療として、今回も累積的防禦療法(cumlative interceptive supportive therapy:CIST)が記述されていますが、口腔インプラント学会編さんの「2016口腔インプラントの治療指針」では、もはやCISTは採用されていません。概念的には理解できても、実際は使いにくいCISTではなく、a)粗面の滑沢化 b)レーザー照射 c)エアアブレーション d)フォトダイナミックセラピー(PTD)の記述のみに変更されています。たぶん歯周病学会のガイドラインの次の改定では、この部分は削除されていくことになるでしょう。
X あと歯周病学会編の「歯周病と全身の健康」ですが、第二部の細胞・分子レベルのメカニズムで、歯周病と慢性腎臓病(CKD)の関係、歯周病と非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の項目が新設され、非常に興味深く読みました。
しばらくは歯周病学会と口腔インプラント学会がリリースした新しいガイドラインが、自分の属するスタディーグループの学習の中心になるものと思われます。医学の進歩に応じて次々と更新されるガイドラインを熟知して、毎日の臨床に応用する必要があり、また近接医学の領域も絶えず研鑽を続ける必要もあって、口腔という限定された領域の医療ですが、過去の知識や経験に安住している余裕がまったくないのが実情です。
歯科開業医の仕事に定年はないのですが、実際問題とすれば、日々急速に変わっていく医学と医療の進歩に追いつくだけの体力と気力が失われた時が、引退を決断しなければならない時になると考えています。
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