bU5 「口が開かない!」開口障害の応急処置 |
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中国は印刷術や紙、羅針盤、火薬の四大発明を行なったとされる偉大な国ですが、様々な苛烈な刑罰の発明者でもあります。 いわく鴆毒、沈河、腰斬、割鼻、自頚、截舌、断手、凌遅、車裂、剥皮、炮烙、烹煮、剖腹、抽腸、幽閉など、その詳細を語ることも憚られるような独創的な発明品の数々が並んでいます。 刑罰は中国だけでなく、中世ヨーロッパを始めとする幾多の帝国において、恐怖による統治手段として、あるいは社会的な復讐心を満足させる手段として発達しました。日本でも磔、獄門、引き回し、釜茹で、鋸引きなどバラエティーに富んだ刑罰が行なわれています。 犯罪者を再教育・矯正することにより、再び社会の有用な構成員として迎えようという考え方は、現代になってから重視されるようになったもので、近代まで刑罰は、想像を絶する残虐な手段で最大の苦痛と屈辱を与えることにより、犯罪者のあげる絶叫や嘆願する姿を人民に観覧させることで、権力者に二度と反抗する気持ちを抱かないようにするために行なわれました。 残念ながら独裁体制の国においては、古代から続く恐怖による支配構造は連綿と続き、いまだに銃殺や絞首刑に処せられる姿を、その家族や地域共同体に強制的に見学させ、あまつさえ処刑される犯罪者に向かって石を投げさせることまで行なわれています。 人類がついこの間まで、お互いの肉を食い合っていた時代から、私たちがさほど離れていないことを実感させます。 (日本が「拷問等禁止条約」に遅まきながら加入したのは1999年になってからのことです。) ベクテル社(※1)やハリバートン社(※2)などを代表とする政商の例を見ればよく分りますが、歴史には必ず悟性の届かない負の部分に寄生する人たちが登場します。 (※1:「世界中で民衆を苦しめる会社ベクテル」⇒http://www.asyura.com/0311/war44/msg/1405.html) (※2:「戦争の不当利益とハリバートン」⇒http://www.jca.apc.org/~kmasuoka/places/halliburton2.html) 現在にまで残る、様々な刑罰の記録は、そのような権力に寄生する一群の人たちが、最大限の苦痛を人間に加えるために、様々に創意工夫した装置や方法ですが、人間という生き物の救いのない暗黒面を証明する資料として語り継がれていくことと思われます。 明代末期の呉爾(ごじ)が著わした「仁書」には、「閉口」という刑罰が記載されています。 これは罪人の口の中に、ものを詰め込み窒息に至らせる刑罰であり、できるだけ長い間、罪人が苦しみながら死に至るように詰め方が工夫されました。 刑罰として行なわれた「閉口」とは些か異なりますが、炎症や腫瘍など様々の原因のために、現代人の私たちも時に口が十分に開かなくなることがあり、これを開口障害(trismusトリスムス)と呼んでいます。 通常、私たちは自分の指を3本以上口の中へ入れられるほど開口できるはずで、例えば指4本が口の中に縦に入るとき、これを4横指の開口があると呼びます。これが1横指〜2横指しか入らないとき開口障害があると判定します。 開口障害の原因は大きく分けて、1.炎症性 2.腫瘍性 3.外傷 4.神経性 5.顎関節症 6.瘢痕性開口障害 7.頭頚部外科手術 8.顎関節部が含まれる放射線療法 9.心因性開口障害 などがあり、様々の原因で口が開かなくなります。 1. 炎症性開口障害:一番多く見られる開口障害で、下顎の智歯(親知らず)の炎症や埋伏した智歯の抜歯を行なった後に起こります。基本的には切開排膿あるいは洗浄や抗菌剤により炎症の消退を待ちます。 他にも、口蓋扁桃周囲膿瘍、咽頭部の炎症、舌下腺炎、口腔底蜂窩織炎、リウマチ性顎関節炎の特定の時期などで開口障害が起きます。 2. 腫瘍性開口障害:口腔周囲の臓器に発生した腫瘍が関節周囲組織を圧迫するか、浸潤した場合。 3. 外傷性開口障害:顎骨骨折、頬骨弓骨折、側頭骨の骨折など。 4. 神経性開口障害:脳出血や脳梗塞などの中枢神経系の障害による開口筋を支配する神経の麻痺。 5. 顎関節症(TMD):下顎頭を包んでいる関節円板と呼ばれる軟骨が脱臼して下顎頭の開口運動を障害している場合に起こります。 6. 瘢痕性開口障害:顔面の重度熱傷による瘢痕などで起きます。 7. 頭頚部外科手術:咀嚼筋や顎関節部への外科手術による侵襲。 8. 顎関節部が含まれる放射線療法:放射線療法を受けた後、数ヶ月してから遅発する場合があります。咀嚼筋の放射線障害が原因で回復しません。 9. 心因性開口障害:転換性障害に伴う運動麻痺など、器質的な障害が認められず、心理的な葛藤、ストレス、不安が身体症状に転換されて表現されています。うつ病や解離性障害と合併する場合も多く認められます。 開口障害があることに気がつかないままでいると、お口の清掃性が低下するために、むし歯や歯周病が進行しやすくなるだけでなく、咀嚼筋を長い期間使わないと、次第に筋肉が廃用萎縮を起こし、症状が固定化し、回復することが難しくなってきます。 さて開口障害の治療ですが、通常の歯科診療所で治療の対象となる疾患は炎症性か顎関節症に伴う開口障害です。その他は、高次医療機関か他科へ紹介することになります。 顎関節症の部分症状としての開口障害に対して、塩酸トルぺリゾン製剤(ムスカルム)などの筋弛緩剤投与や関節パンピング(無菌的な環境下で、局所麻酔薬、生理食塩水、ステロイドホルモン、ヒアルロン酸ナトリウムなどを顎関節内へ注入・吸引を繰り返すこと)などが行なわれますが、まず開業医が試したいのがマニュピレーション、つまり徒手的整復とマイオモニターによる通電療法です。レーザー照射や近赤外線照射も行なわれます。 自宅では入浴時など、筋肉がリラックスしたときにくさび(セラバイトなど)や指による開口ストレッチを一定の時間(10分くらい)繰り返し行なうことに効果があります。この時、筋肉に痛みを感じるほど行なってはいけません。筋肉が損傷するために、かえって症状が悪化するからです。無理せず少しずつが基本になります。 夜間はスプリント療法を行います。(マウスピースによる関節の挙上と関節の負担軽減) ○徒手的整復の方法 1.術者の右手の指に布を巻くか、手袋を二重にする。これは患者さんに指を咬まれるのを防ぐためです。 2.患者さんの頭を抱え込むようにして、左手で患者さんの側頭部を押さえます。 3.右手の指で患者さんの患側の大臼歯部を圧下させる力を間歇的に加えます。このとき力の方向は下顎骨が蝶番運動を起こすような力ではなく、下顎頭を関節窩から下方へ引き剥がすような方向にかけます。 また力の強さは最初に弱く、次第に強くしていき、患者さんが痛みを訴えるような暴力的な力をかけてはいけません。 4.必ず患者さんがリラックスし、全身の筋肉の力を抜くように誘導しながら行ないます。 上手に行なうと、即座に開口量が1横指ほど得られますが、効果がまったく現れない場合は、それ以上行ってはいけません。他の方法を検討しましょう。術前、術後にノギスで開口量を測っておくと、効果を客観的に説明することができます。 参考文献:「中国大虐殺史」石平 著 ビジネス社 「ありのままの中国」 黄文雄 日本文芸社 「拷問と刑罰の歴史」カレン・ファリントン著、飯泉恵美子訳 川出書房新社 「拷問等禁止条約」外務省 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/gomon/index.html 「最新顎関節症治療の実際」グレッグ・ゴダード著 井川雅子著 和島浩一著 チャールズ・マックニール監修 クインテッセンス出版株式会社 |