bV1「ショービジネス」エンターテイメントとしての歯科治療
本文へジャンプ 5月16日 
  





 ショービジネスと言えば、なぜかフランク・シナトラ(Frank Sinatra)を思い出す私は、やはり相当古い人間でしょうか?
http://jp.youtube.com/watch?v=X--QWXGjXfg&feature=related

 最近、地元の中核私立病院のひとつが国道沿いに移転新築しましたが、その落成なった新病院で、先日当院の古くからの患者さんのご母堂が人工股関節手術(THA (Total Hip Arthroplasty) = 人工股関節形成術)を受けられました。

 年をとると股関節が変形し、歩くときに強い痛みが発現することがあります。原因となる病気は、股関節の軟骨が磨り減る変形性股関節症や関節リウマチ、大腿骨骨頭壊死などです。

人工股関節手術では、磨り減ったり、変形した大腿骨骨頭を切除し、ステムと呼ばれるコバルトクロム合金やチタン合金製の棒を大腿骨にねじ込み、その頭にコバルトクロム合金やジルコニアでできたヘッド(人工関節頭)をつけます。

最近はステムの表面をハイドロキシアパタイトで覆い、骨との生体親和性を向上させたものが使われるようになり、この点、歯科治療で使われるインプラントと似ています。

一方、腰骨の寛骨には、最初に、人工大腿骨頭を受け入れるソケットであるチタン合金製のカップをはめ込みます。つまり寛骨臼部分を半球状にドリルで削り、カップをネジで骨に固定します。

カップの内側にはポリエチレン製のライナーと呼ばれる人工軟骨を嵌めて、先ほどのヘッドと組み合わせて縫合すると手術は終了します。

手術時間は1〜2時間程度ですが、この病院では、手術の最初から最後までの詳細をリアルタイムで、同伴する家族に別室で観覧させるそうです。

手術に使う器具と同じものを実際に傍らに置きながら、手術の進行に従って解説してくれるそうです。

皮膚を切開し、大腿骨骨頭を切断し、寛骨にドリルで臼を形成し、大腿骨には20〜30cmも穴を掘り、鑿(ノミ)や鏨(タガネ)や鋸(ノコギリ)、ドリルも登場する、まるで大工仕事のような手術で、患者さんは『職人技だなあ』と感心して見ていたそうです。

手術後には、手術の様子を映したDVDをくれたそうで、『最近の病院はまさにショービジネスですね』と言って笑っておられました。

幸いご母堂は、翌日からリハビリテーションに励まれ、一週間ほどで退院されて、今は階段の上り下りにも支障がなく、かえって手術を受けていない反対側の関節が痛みが気になるくらいになっておられます。

歯科医療でも、歯科恐怖症の治療のひとつとして、治療の進行を術者のゴーグルにつけたカメラを通してヘッドアップディスプレイで見ていただく方法があります。ヘッドアップディスプレイはゴーグルのような形状の小さなモニターですが、視界全体をカバーする大きな画面で映画やパソコン画面を見ることができます。

恐怖感や不安感の大半は、過去の経験から生まれる主観的な想像力の産物なので、実際の治療風景を術者の視点から見てもらうことにより、対象を客観化し、恐怖や不安を解体する目的で行なわれます。

一般的に、治療の実際を第三者的な視点で眺めることにより、治療の必要性や意義について理解できるとともに、主体的に医療に参加しようとするモチベーションが生まれると言われています。

また最近は、チェアサイドでセラミックスインレーをその場でつくるマシニングマシーンが売られていますが、歯を削ってつくった穴の形状をレーザー等で光学的に計測し、そのデータを用いて充填物の設計を行い、CADCAM(※1)でポーセレンブロックを削りだし、インレーやアンレー、クラウンをその場で製作し、一回の来院で患者さんのお口の中に歯と同じ色をした詰め物や冠を装着することができるようになっています。

最近のマシニングマシーンは冠の製作中、音楽が流れ、イルミネーションが点滅し、製作工程それ自体が一種のエンターテイメントになっていて、患者さんの目を釘付けにするそうです。(ただし器械の価格は一千万円を超えるものであり、まだどの歯科医院にも設置されているというものではありません。)

これらの『ショービジネス』の宣伝効果には驚異的なものがあり、新鮮なショックを受けた患者さんは、帰宅されてから家族に話し、友人に話し、職場で話し、宴会で話し、自分が通院している歯科医院の診療室で驚きの体験を伝えるわけです。

その口コミの伝播力には侮れないものがあると思いませんか?

ただ安全安心な医療を行うだけでは不十分で、患者さんに「新鮮な感動体験を与える」ことが医療現場で求められる時代になってきました。

私もシナトラでも聞きながら、しばし当院におけるショービジネスの将来性について考えてみたいと思います。


※1:CADとは、Computer Aided Designの略で、コンピュータを利用して設計などを行うことで、CAMとは、Computer Aided Manufacturingの略で、コンピュータの支援によって、製造や生産を行うことです。