73 「ジルコニアの輝き」オールセラミックスクラウンの進歩 |
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(二酸化ジルコニウム製の人造ダイヤモンド フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より引用) 美しさを求める人間の欲求に限りはありません。 輝くような美しい笑顔は若さと健康の象徴として、古代から有産階級のなかで追い求められてきました。 初めて出会った人間に対して、その人の行動も何も考慮しないまま、脳の臭皮質内部にあるアーモンドの形をした小さな灰白質の塊である扁桃体(amgdaloid bodyアミグダロイド ボディ)は0.5秒の間に自分にとっての好悪を判断してしまいます。 これがいわゆる一目惚れの原因であり、いきなり「あの人は生理的に駄目」と拒否される原因にもなっています。 価値判断を下される本人にとっては無実の罪で裁かれるわけで、いくら「I’m not guilty!」と叫んでみても、本能には勝てません。 彼女の扁桃体の価値基準には、先祖代々、お尻に尻尾が生えていた頃から受け継がれてきた経験則も含まれているわけですから、無駄な抵抗はやめて少しでも「見た目の改善」という表面的な弥縫策(びほうさく)をまずとり、そのテリトリー内にまず侵入してから、次にあなたの内面の良さをアピールしてください。 人類最古の歯科医療には諸説がありますが、よく知られているものとしてエトルリア時代の貴金属によるブリッジがあります。雄牛のものと推定される歯をゴールドのバンドで止めたもので、上顎前歯部 1|1の欠損部をA1|1ABのブリッジで補っています。 (図説歯科医学の歴史 MALVIN E.RING著: 西村書店より引用) エトルリアは紀元前9〜8世紀頃イタリア北部でエトルリア文化を築き、紀元前7〜6世紀にもっとも栄えましたが、紀元前80年ローマに征服され、現在はその文明は痕跡だけが残っています。言語はどの他の言語とも似ていず、墓名碑等の解析ではインド・ヨーロッパ語族ではないと言われている謎の民族で、エトルリアの名前はトスカニーニ地方につながっているそうです。高度な装飾文明を誇っていましたが、占領したローマ人からは妬まれ、その文明の痕跡は徹底的に破壊されたと伝えられています。 話は脱線しましたが、歯を失った欠損部分を象牙や他人の歯、宝石や貝で補う方法は、古代から行なわれており、その考え方は材質や技術が異なるものの、基本的には現代の歯科医療にまで続いています。 安全で経済的で、エビデンスのある、歯や歯槽骨の再生医療が開発され、普及するまでは、好む好まざるにかかわらず、歯科医療は欠損補綴、つまり人工物による機能や形態の回復の道を歩んでいかなくてはなりません。 別の見方をすれば、欠損補綴と言う面からの歯科医療の歴史は、すなわち歯科材料の進歩の歴史であるとも言えます。 中世のパリでは貧しい若者の歯を抜歯して、富裕層の治療に使った記録が残っていますし、他にも動物の歯や牙、アマルガム、金などが用いられてきました。 アマルガムや金は現在でも用いられていますし、プラスティックや金合金、銀合金、コバルトクロム合金、ニッケルクロム合金、チタン、ガラス類、セラミック、各種セメント類などが、医療経済学的な条件、治療の目的に合わせて適宜用いられています。 現在、保険診療内で前歯のむし歯を治すには、レジン(プラスティック)やセメントをむし歯の部分だけに詰める治療が優先されます。これはできるだけ歯を削らないようにして歯髄を残そうという考え方で行なわれます。 しかしむし歯の範囲が広がっている場合と、すでに歯髄が死んでいるか失われている場合には冠をかぶせることが多くなってきます。 前歯の冠の材質としては、保険内の場合、硬質レジン前装12%金銀パラジウム合金鋳造冠というものが主体となります。これは簡単に言えば、12%だけ金を添加して物性を改善した銀合金の冠にプラスティックを接着したもので、最近のレジンの物性の向上により、かなり耐久性や審美性が改善されてきています。 保険外の治療として、従来はメタルボンドと呼ばれる、貴金属またはニッケルクロム合金の冠の上に陶材を溶着したもので、メタル部分は予算により決まりますが、通常はプレシャスと呼ばれる純度の高い白金加金合金かセミプレシャスと呼ばれる金の含有量が50%程度の白金とその他の金属の合金がよく使われます。 ゴールドは延びが良く適合性が高く、精密な冠をかぶせることができ、酸やアルカリにも強いのですが、最大の欠点は金色をしていることです。 日本でも戦後しばらくは前歯に金歯を獅子舞のお獅子のように被せるのが、ステータスシンボルであった時代があったと聞き及びますが、さすがに現代では、そのようなゴシック的な感性は見向きもされなくなっています。 治療したことが、周囲の人はもちろん、本人にも治療を行った歯科医師にも分らないような自然な色と形の冠、限りなく天然歯にちかい透明感と複雑なレイヤー構造の色彩美、高度な生体親和性と歯肉縁との調和、金属アレルギーを起す心配がなく、強靭な曲げ特性と圧縮強度、靭性強度、耐蝕性、いつまでも変わらない色調と表面の滑沢さ、加えて自然な濡れ特性と親水性、優れた加工特性と経済性、このような究極の歯科材料を目指して様々な研究が積み重ねられてきました。 近年、急速に普及している歯科材料としてジルコニアが挙げられます。これはもともと人造ダイヤモンドの材料として用いられてきた材料ですが、その優れた圧縮強度や高温特性から、エンジンのピストンリングにも使われてきました。 ジルコニア(二酸化ジルコニウムZrO2)は融点が2715℃の耐熱性セラミックで、モース硬度が8から8.5とサファイア、ルビーに次ぐ硬さを誇り、 透明でダイヤモンドに近い屈折率を持っています。 特徴は温度の上昇に従って、結晶構造が変化する(相転移)ことで、相転移に伴い体積の収縮・膨張が起こるために、そのままでは温度変化に伴って破壊されてしまいます。 しかし酸化カルシウムや酸化マグネシウム、酸化イットリウムを加えることにより、結晶構造中に酸素空孔、つまり小さな穴が加わり、微小な破折線が生じても、破折線がこの孔で行き止まりになってしまうために、温度変化があっても割れにくくなります。 このように希土類酸化物を混ぜたジルコニアを安定化ジルコニア (stabilized zirconia) 、または部分安定化ジルコニア (partially stabilized zirconia) と呼びます。 現在、歯科治療で使われているジルコニアはこの部分安定化ジルコニアで、カタログデータでは、エナメル質の曲げ強度が10.3 MPa(メガパスカル)であるのに対し、従来型のメタルボンドに使われるアルミナセラミックスが約700 MPa、ジルコニアでは900〜1200MPaになります。 数字だけから見ると、絶対にお口のなかで壊れないのではないかと思われますが、長年の臨床経験から言えることは、どんな優れた材料でも強力な歯ぎしりにはかなわないということです。 ジルコニアそのものも徐々に強度が低下していく性質があり、およそ5年間で最初の強度の半分に低下すると言われています。 しかし、総合的に考えると金属を使わないために、重量を軽くすることができ、食べ物の味が変わらない、メタルボンドと比べて内部の金属が影をつくらないために歯茎が黒くなりにくい、光が後ろ側に透過するので自然な美しさがある、かなりの安定性と強度が期待できる点などを考慮すると、かなり期待のもてる材料じゃないでしょうか? 数年前からほとんどの冠をジルコニアに切り替えていますが、今のところ破折・破損事故は起きていません。ただし非常に厳しい症例には使っていませんので、本当の臨床的評価は10年、20年と経験を積み重ねないとなんとも言えません。 もし最新の審美治療を希望される方は、ジルコニアによるオールセラミッククラウンを検討されてみたらいかがでしょうか?少なくとも時代の最先端に参加しているという満足感だけは得られるものと思います。 |