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№99「歯科医療における骨太の方針」
↑2008.7.20 小仙丈より仙丈ケ岳
我国の医療費における歯科医療の割合は6~7%であり、まさに「金魚の糞」としての評価しかされていませんから、医療における歯科の立場は主要な医療制度改革の大潮に揺り動かされる一片の藻のようなものに過ぎません。
1993年、宮澤喜一首相とビル・クリントン大統領により、日米政府間において、両国の経済発展のためにお互いが改善すべき点を要望書として取り交わすことが決められました。
最初に要望書が取り交わされたのは1994年と言われていますが、平成13年(2001年)からは「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく要望書」(The U.S.-Japan Regulatory Reform and Competition Policy Initiative)として、毎年その内容が公表されています。
(⇒「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本政府への米国政府の年次改革要望書2001年10月14日」http://japan.usembassy.gov/j/p/tpj-jp0025.html#医療機器・医薬品)
要望書におけるアメリカの要求が実現した例としては、建築基準法の改正、法科大学院設置、独占禁止法強化、郵政民営化などがあり、医療においては電子カルテの普及、特区における株式会社の参入、病院機能の再編などが挙げられます。
2001年度の年次改革要望書には、医療制度改革についてアメリカ側から、「日本が効率的で質の高い医療の実現を目指すに当たり、小泉首相が医療分野の改革に焦点を合わせていることをおおむね歓迎する。市場競争原理の導入を通じて、革新性、調和性、透明性、予見可能性そして効率性が改善すれば、日本のそうした目標の達成に資する上、経済成長も刺激される。」というメッセージが盛りこまれ、「日本の医療費を押し上げている制度の非効率性(世界一の平均入院日数、過剰な数の医療施設、IT化の遅れや専門病院の不足など)に取り組み、この分野での規制や貿易障壁を取り除くことは、資源の有効配分につながり、生命力を高める費用対効果にも優れた製品が患者にもより迅速に提供されることになる。」と記述されています。
具体的には、以下の諸点が述べられていますが、どこかで聞いた言葉ばかりが並んでいることに気がつきませんか?
・ 医療制度改革: 市場競争原理を導入し、日本の医療制度を改善するために、一般に対する医療情報開示の水準を向上させ、病院や看護施設での民間の役割の拡大等を含む構造改革を推進する。
・ 医療機器・医薬品の価格算定改革: 革新的な医療機器・医薬品が確実に導入されタイムリーに使用されるようにし、「市場の役割を認める価格設定をする」。そのような製品が、革新的な製品の価値を下げる恣意的な価格操作の対象にならないことを保証する。
・ 医療機器・医薬品の薬事制度改革: 医療機器・医薬品、特に日本では導入されていないが他の主要国で入手可能な製品、の承認を促進する措置を引き続き取る。
・ 外国臨床データの受け入れ: 外国臨床データの幅広い利用を促進するために、薬事規制の医薬品規制整合化国際会議(ICH)のプロセスの枠内で引き続き作業を進める。そして、日本の臨床治験制度のさらなる効率的な利用を促進する。
・ 栄養補助食品の自由化: 栄養補助食品の販売規制をさらに緩和する。
あまり報道されていませんが、経済財政諮問会議が毎年提言する「骨太の方針」の大半が、実はアメリカが毎年託宣する年次報告書の追認に過ぎなかったことがよく分ることと思います。
アメリカンスタンダードに無条件に追従する経済界や政界の隷属姿勢を見るにつけ、我国は60年前の大戦で無条件降伏した国だったことに改めて気がつかされます。
さて小泉首相が規範とするその「アメリカンスタンダード」の大元であるアメリカ自身の医療制度に欠陥があることは、映画「sicko」などを参考にしてもらえば分りますが、歯科医療においてもアメリカでは何百万人もの人が歯科医療機関のケアを受けていません。
審美歯科やインプラントなどのアメリカから発信される情報に接すると、アメリカ人は皆、子供の頃から矯正を受け、きれいな歯並びで輝くようなスマイルを浮かべているような気がしますが、そんなことはありません。
弱肉強食が徹底した社会ですから、医療の恩恵を受けられない人たちが、芥のように社会の下部構造に沈潜しているのです。
現在、アメリカには国民が強制加入する医療保険制度はなく、また、先の民主党大会を見るまでもなく、国民皆保険を主張する候補は必ず落選する傾向があります。
この背景には「アメリカンドリーム」、「銃への信仰」、「小さな政府への信奉」など、独特の文化があり、他国の事情をそのまま我国に適応しても、問題が生ずることは自明であり、却って日本の文化の良い点を破壊してしまうことに繋がりかねません。
2006年時点で4600万人の未保険加入者がいるアメリカですが、さらに歯科治療の給付がある保険に未加入な人は1億800万人に達していると言われています。
特に65歳以上を対象とした公的医療保険である「メディケア」に加入している人では、その75%が歯科を受診していないと言われています。
一般にアメリカで、ある程度の歯の欠損を持つ保険未加入者が、日本の保険診療でできるレベルのフルマウス治療を受けようとしたら、1年以上の治療期間と300万円以上の歯科医療費を提示されるのがふつうです。(実際にはこの金額ではたぶん無理だと思いますが‥)
保険料を払えないために、歯科給付のある民間保険に加入していない人が、いまさら高額な歯科治療費を支払えるとは思えません。
したがって、日本では保存すると思われる歯を抜歯する傾向が強かったり、歯を失ったままで不自由な生活を強いられている人がたくさんいると言われています。
「骨太の方針」が目指すアメリカの医療制度が、日本の医療を崩壊させ、日本の社会や文化を変質させてしまうとしたら、経済財政諮問会議に群がる政財界人の罪は重く、国民の健康、特に歯科医療の将来は危殆に瀕していると言わざるを得えません。
参考文献:「笑えないアメリカの高齢者続出か? 治療費が高く歯科受診を躊躇」国際長寿センターHP http://www.ilcjapan.org/foreign/gijpdf/0704_03.pdf
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