ストレス・疲労と歯周病    工事中です。

コラム
健康な部位のプラークから検出される歯肉縁下プラーク細菌(『口腔微生物学・免疫学 第2版』浜田茂幸編著 医歯薬出版より引用・改変)

Streptococcus oralis
Streptococcus sanguinis
Streptococcus mitis
Streptococcus gordonii
Streptococcus mutans
Streptococcus anginosus
Streptococcus intermedius
Gemella morbillorum
Rothia dentocariosa
Actinomyces naeslundii
Actinomyces gevrencseriae
Actinomyces odontolyticus
Peptostreptococcus micros
Eubaterium nodatum
Capnocytophaga ochracea
Capnocytophaga gingivalis
Campylobacter gracilis
Fusobacterium nucleatum





歯肉炎部位から検出される歯肉縁下プラーク細菌

Streptococcus oralis
Streptococcus sanguinis
Streptococcus mitis

Streptococcus intermedius
Capnocytophaga ochracea
Capnocytophaga gingivalis
Campylobacter gracilis
Prevotella loescheii
Peptostreptococcus micros
Eubaterium nodatum
Actinomyces naeslundii
Actinomyces israelii
Campylobacter concisus
Actinomyces odontolyticus
Fusobacterium nucleatum
Eubaterium brachy
Eikenella corrodens
Actinobacillus actinomycetemcomitans

(以上赤字は健康な歯肉部位で検出されない細菌種)

健康な部位のプラーク細菌種と歯周炎に罹患した部位の細菌種には明確な違いがあるけれども健康な部位の細菌種と歯肉炎の部位の細菌種は共通している細菌種が多いことが分かります。これは歯肉炎の発症は非特定細菌の総量に相関して起こるためと考えられます。


なぜ歯周病菌を排除できないか?
局所免疫機構からのエスケープ機構
(参考:『口腔微生物学・免疫学 第2版』浜田茂幸編著 医歯薬出版)

歯周病患者さんの歯肉溝液中には歯周病菌に対する特異抗体が存在するにもかかわらず、病原性細菌を排除できません。

歯周病原性細菌は特異的局所免疫機構の効果をを無効にしてしまうエスケープ機構を持っています。

(1)細菌が水に不溶性のバイオフィルムを形成するため、バイオフィルム内の歯周病菌に免疫作用物質が届かない。

(2)歯周病原性細菌の産生するプロテアーゼ(蛋白分解酵素)が特異抗体などの免疫作用物質を分解し、溶菌作用やオプソニン効果などを抑制する。

このようなエスケープ機構が歯周病原性細菌の持続的な感染を成立させ、歯周組織の慢性炎症反応を助長させます。



 あなたはどうやってリラックスしていますか?

 食べる
 眠る
 笑う
 空想や妄想にふける
 好きな対象の学習や研究
 創作活動
 酒
 喫煙
 精神安定剤などの薬物
 カウンセリング
 催眠療法
 好きな音楽を聴く
 漫画を読む
 読書
 植物の手入れ
 ペットと遊ぶ
 孫の顔を見る
 友人と遊ぶ
 デート
 カラオケ
 ジムに通う
 電話でおしゃべり
 テレビを見る
 ビデオを見る
 映画を見る
 ネットサーフィン
 瞑想
 温泉
 旅行
 スポーツ全般
 各種の趣味
 アロマテラピー
 ハーブ
 リフレクソロジー
 タラソテラピー
 マッサージ
 鍼灸
 呼吸法
 ヨ-ガ
 気功
 太極拳
 ショッピング
 部屋の掃除
 ゲーム
 ギャンブル
 皿を投げる
 プチ家出
 権力を行使したり弱いものをいじめる
 
 現代人の活動は緊張して働くか、その緊張をほぐすためにリラクゼーションを求めるかのどちらかに大別されるようです。
 効果的で社会や自分に実害のないリラクゼーションを選んでください。


ヘルパーT細胞
Th1細胞 IL-12の存在下で分化し、分化後はIFN-γを主に産生する。細胞性免疫を媒介し、自己免疫疾患、遅延型アレルギーに関係する。
Th2細胞 IL-4によって分化しIL-4を産生する。
液性免疫を媒介し、即時型アレルギーに関係する。
Th17細胞 IL-6、TGF-β存在下で分化し、分化後はIL-17を産生する。
自己免疫疾患に関係。




















































 歯周病の直接原因 歯周病は歯周病菌による感染症ですが‥ (参考:『口腔微生物学・免疫学 第2版』浜田茂幸編著 医歯薬出版)

 歯周病の直接的な原因となる歯周病原性細菌として現在10種類以上の細菌が挙げられています。
結核が結核菌により起こり、コレラがコレラ菌により起こるなど、ひとつの菌種とひとつの感染症が1対1で対応している関係と異なり、歯周病の場合はひとつの特定菌種により歯周病が成立するわけではなく、複数の菌種による混合感染により引き起こされる様々のタイプの炎症性疾患であるという見方が一般的です。

歯周炎の病型により異なる歯周病原性細菌(『口腔微生物学・免疫学 第2版』浜田茂幸編著 医歯薬出版より引用・改変)
歯周炎
病型
歯周病原性細菌
成人型歯周炎 Porpyromonas gingivalis
Tannerella forsythensis(forsythia)
Prevotella intermedia
Treponema species
Peptostreptococcus micros
Campylobacter rectus
Actinobacillus actinomycetemcomitans
Eikenella corrodens
Fusobacterium species
Selemonas species
Eubacterium species
若年性歯周炎 Actinobacillus actinomycetemcomitans
Prevotella intermedia
Eikenella corrodens
前思春期性歯周炎 Prevotella intermedia
Actinobacillus actinomycetemcomitans
Porpyromonas gingivalis
Eikenella corrodens
Fusobacterium nucleatum
急速進行性歯周炎 Actinobacillus actinomycetemcomitans
Porpyromonas gingivalis
Tannerella forsythensis(forsythia)
Campylobacter rectus
Eikenella corrodens
難治性歯周炎 Actinobacillus actinomycetemcomitans
Porpyromonas gingivalis
Prevotella intermedia
Tannerella forsythensis(forsythia)
Campylobacter rectus
Peptostreptococcus micros
Enteric species
Candida species


 歯周病の間接的原因 

 同じ歯周病関連菌の感染機会を持ったとしても、ある人は歯周病が進行し、ある人は健康な歯肉と歯槽骨を保ち続けます。つまり重症の歯周病の患者さんに絶えず接触している歯科医療関係者がすべて歯周病が進行するかというとそうではありません。臨床的には歯周病を成立させ、その進行を助け、治癒を阻害するいくつかの間接的な原因が重要な意味を持っています。

 実際の歯科治療では直接的な原因である歯周病原性細菌をプラークコントロールやルートプレーニング、薬物療法等でコントロールするとともに、その患者さん固有の間接的な原因を診断し、可能な限りそれを取り除くか影響を弱めることが治療の重要な柱になります。

 歯周病原性細菌に曝露される機会は誰もが持っていても、特定のいくつかの間接的な原因が組み合わさったときに発症し、進行するという実態から考えると、臨床的には歯周病は細菌感染症であるだけでなく、まさしく生活習慣病であり、患者さんのライフスタイルや行動様式に切り込んでいく姿勢がなければ持続的な病状の安定を得ることはできません。歯周病治療において診断の対象はX線写真や歯周ポケットの深さ、BOP(プロービング時の出血の有無)、歯の動揺、咬合状態などの局所的な病像だけではなく、全身的な既往歴や投薬歴、職業、家族歴、生活習慣、患者さんのストレス耐性など社会的環境や心の問題まで広げる必要があります。

 特に近年注目されているのが心身に加えられる過剰なストレスにより白血球の中の顆粒球が活性化し、その影響から歯肉や歯槽骨などの組織破壊が亢進するメカニズムです。仕事と人生に疲れ果てた中高年の難治性歯周病の影には心の問題が潜んでいることが多く、患者さんへの総合的なアプローチが要求されるため、臨床家としての幅広い経験と力量を問われます。

主な歯周病の間接原因
タバコ 
2 プラークコントロールの不良
3 咬み合わせ(外傷性咬合)、悪習癖(弄舌癖など)
4 歯ぎしりと噛みしめ(ブラキシズムとクレンチング、タッピング)
5 悪い歯並び
6 糖尿病・腎疾患・貧血・骨粗鬆症・血行の停滞・新陳代謝の低下・がんなど基礎疾患やステロイドホルモンの長期連用その他の薬物
7 ストレスと疲労→顆粒球の増加
8 閉経
9 加齢
10 晩酌習慣
11 睡眠障害
12 不良補綴物(精度の悪い合っていない冠や詰め物)
13 口呼吸・唾液分泌障害
14 運動不足と肥満、高コレステロール血症、動脈硬化
15 濃厚な繰り返しの感染(歯科医療従事者など)

 歯周病治療の方法

 従って、歯周病の治療は次のような方法で行われます。

歯周病の主な治療方法
1 可能な限り間接的な原因を取り除く。
2 歯石除去とルートプレーニング
3 咬み合わせの調整
4 薬物療法
5 歯周外科手術
6 再生療法
7 リラクゼーション
8 定期的な検診と専門的清掃(PTC)



 ストレスと疲労と歯病病  (参照:「こうすれば病気は治るー心とからだの免疫学」 安保徹著 新潮選書)

 残業が続く中高年の中間管理職などいかにも疲れ果てたという感じの患者さんの歯周病が治りにくく、再発しやすいことはなんとなくあたりまえのこととして捉えられてきました。しかし最近明らかになりつつある精神免疫学とでもいうべき領域の知見によれば、これらの疲労困憊している患者さんの歯周病がなぜ治りにくいかということについて徐々に説明ができるようになっています。

  私たちの身体は白血球によって守られていますが、その白血球は次のように分類されます。
 
 
白血球
単球(血液内)→
白血球の5%
マクロファージ(血管外の組織内) 細菌、ウイルス、死んだ細胞等の異物を取り込む。炎症後期に働く。抗原呈示。骨を壊す破骨細胞はマクロファージの一種。
顆粒球
(細菌を貪食する)
白血球の60%
好中球 強い貪食能力を持ち、細菌などの体内の有害物を除去する。しかし、場合によっては組織障害性に働くこともある。
好酸球 アレルギー反応の制御を行なう。
好塩基球 顆粒の中には、ヒスタミンやヘパリンなどが含まれており、アナフィラキシーショック・じんましん・気管支喘息などを引き起こす。
リンパ球
(細菌より小さなウイルス、リケッチア、異種ペプチドなどの異物を凝集させ処理するる)免疫反応をつかさどる。

白血球の35%
NK細胞 常に体内をパトロールし、ガン細胞やウイルス感染細胞を見つけると、単独で直接殺す。
B細胞
(液性免疫)
抗体を産生し、病原体を失活させたり病原体に目印をつける。
T細胞
(細胞性免疫)
ヘルパーT細胞 抗体産生を助ける。 Th1細胞
Th2細胞
Th17細胞
細胞障害性T細胞 癌細胞を殺す。キラーT細胞
サプレッサー T細胞 免疫反応を抑制・終了させる?
レギュラトリー T細胞
他のT細胞活性を抑制
NKT細胞 NK細胞とT細胞の中間性質
胸腺外分化T細胞 胸腺を介さずに成熟する。


 体内に細菌などの異物が侵入すると炎症が起こります。

体内に異物が侵入すると炎症が起こる 顆粒球
(大きな異物を貪食)
60%
化膿性の炎症を起こすが、自分の身体をも攻撃し組織を破壊する。
リンパ球
(小さな異物担当)
35%
サラサラした漿液が出るカタル性炎症を起こす。
強いアレルギー性炎症を起こす。


 なぜ歯周病は再発するのか?

@)細菌感染には顆粒球が対応し、リンパ球の反応はほとんど起きないために、免疫が成立しません。従って例えばアクネ菌の感染によるにきびは、化膿して治りますが、顆粒球が対応して化膿することで治り何度も感染を繰り返し、免疫ができることがありません。サルモネラ菌やボツリヌス菌によって起こる食中毒も顆粒球が対応しリンパ球は誘導されないので、強い免疫が成立せず一度食中毒にかかっても何度も感染します。

 歯周病も歯周病菌に対して強い免疫が成立しないので歯科治療により一度臨床的な治癒を得られても何度も再発、感染してしまいます。

A)食物アレルギーなど細菌より小さな粒子が抗原となって起こるアレルギーはリンパ球により起こります。卵の白身や鯖、カニやエビ、蕎麦、キウイなど体内に入った食べ物の蛋白質は消化酵素により分断されペプチドになります。アミノ酸が数個〜十数個つらなるペプチド状態になって初めて食べ物は腸管から吸収されます。このペプチドが抗原として認識されるとアレルギーを起こすのですが、まだ腸管粘膜上皮の発育が不十分な乳幼児や下痢などで腸管の粘膜上皮の防護が完全でなくなったときに、直接ペプチドが腸管壁から体内に侵入しやすくなるために抗原獲得しやすくなります。
 また天然痘や麻疹や狂犬病などウイルス感染により起こる病気ではウイルスがリンパ球を誘導して免疫が成立します。

 リンパ球と顆粒球の機能のバランスが崩れたときに病気になります。

顆粒球優位 発ガンなど組織の破壊が起こる。
リンパ球優位 アレルギーや自己免疫疾患が起こる。


 白血球も自律神経の支配を受けていることが分かってきました。。多細胞生物において自律神経は心身のおかれた状況に合わせてどの細胞が活発に働くかを決めています。
 
交感神経 攻撃や逃走などエネルギー消費の増大を必要とするときに働く 副腎の出すアドレナリン
交感神経が出すノルアドレナリン
脳内ではドーパミン

が媒介する
交感神経が緊張すると顆粒球が増える
副交感神経 休んだり眠ったりリラックスするときに働く(エネルギーの蓄積) アセチルコリンが媒介する 副交感神経が緊張するとリンパ球が増える

 自律神経はそのとき要求される行動に合わせて活発な働きが要求される細胞を活性化させ、他の細胞を休めます。自律神経失調症という病名がつけられる場合がありますが、自律神経がうまく働かないと、活発に仕事をしなければならないときにのぼせてしまったり、横になって身体を休めたいときに手足が冷えてしまったりします。自律神経失調症の一番の原因はストレスであり、緊張や不安や焦燥が正常な自律神経の機能を乱し、様々の不定愁訴を引き起こします。

 交感神経の緊張は興奮とやる気を引き出し、目の前のノルマを次々と解決していくことができます。しかし行き過ぎると心身のエネルギーは使い尽くされ、高血圧・高血糖・睡眠障害・不安障害を招きいつも疲れた状態になってしまいます。
 逆に副交感神経の優位は気分をリラックスさせ、食欲を引き出し、食欲が満たされれば眠気を誘います。しかし過度にリラックスした状態が続けば少し動いただけで疲れるようになり、やる気も起きず朝起きることもむつかしくなり、ささいなことが気になって神経過敏状態になります。
 
 交感神経が緊張気味な人は仕事量を減らして頑張りすぎを卒業し、不安や焦燥など心の悩みから開放されることができれば健康状態を維持できますし、副交感神経が優位すぎる人は食べ過ぎに注意し、適度な運動習慣を保ち、活発な日常生活を送るように努めればより健康になることができます。


 過剰なストレスと疲労は顆粒球の過剰反応を招き、歯肉や歯槽骨などの組織破壊を亢進させます。



 がんばらない、あせらない。7割人生で楽に生きる。

 以上のように歯周病は顆粒球の過剰反応により進みます。

頑張りすぎ、気張りすぎから交感神経緊張に至り、顆粒球増多となって、壊れた顆粒球から放出される加水分解酵素と活性酸素により歯肉と歯槽骨が破壊されていきます。

また強い不安と焦燥は睡眠中の歯ぎしりや喰いしばりを招き、これも歯槽骨の破壊・吸収を加速します。

このような患者さんでは口腔内を清潔にするとともにストレスフルなライフスタイルを見直さなければ歯周病の進行を食い止めることはできません。うず高く積まれたノルマには優先順位をつけ、その日やらなくてはならないことだけまずやりとげましょう。やるべきことだけやったら後はくよくよ悩んでも悩まなくても結果は変わりませんので悩むだけ損をしてしまいます。

疲れると頭が働かなくなり悲観的な想念が堂々巡りをするようになりがちです。そんな時は何も考えずにすぐに寝てしまいましょう。とりあえず翌日早く目覚めれば不思議とやる気が出てくるものです。規則正しい生活を送り悩みやストレスをできるだけ溜め込まないようにすることが歯周病を治していく有力な治療方法になります。